TOP 書評再録 星降る震災の夜に ある精神科医の震災日誌と断想

星降る震災の夜に ある精神科医の震災日誌と断想

http://www.hihyosya.co.jp/isbn978-4-8265-0567-3

2012年10月28日(日)共同通信配信書評 「岩手日報」「福島民友」「高知新聞」ほか。評者は、ノンフィクション作家の沢宮優さん。

 東日本大震災の夜、仙台は満天の星空であった。惨劇の日に、何という皮肉であろう。著者の手記でその事実を初めて知った。本書は仙台市の総合病院に勤務する精神科医が、震災前後の7カ月をつづった日誌と、震災を体験しての提言やエッセイから成っている。
 大震災のとき精神医療に何が求められるのか。著者は、派手な話題になりがちな心的外傷後ストレス障害(PTSD)より、市井の目立たぬ中で暮らす人たちの精神生活の健康を保つことがより重要であると痛切に訴える。統合失調症など慢性疾患を抱えた患者に、いかに震災前と同じように医療を維持してゆくのかという点である。安定していた患者が震災のため診療も投薬も受けられず、変調をきたすことは多い。そんな被災地の精神医療の現実が明らかにされる。
 著者の自宅は半壊し、かつて勤務した病院は無人地帯になった。救いは彼の患者たちだ。震災から半月余りで、外来に予約していた患者の7割が受診に来た。音信不通の80歳近い女性は5カ月後、元気な姿でやって来た。彼女は「センセイよくご無事だったごど?」と表情を崩して泣き、著者と手を握り合った。そこに古代から苦難の歴史を歩んでも、相互に助け合って生きる東北人の特質が見えてくる。
 著者は科学者としての視点も忘れない。震災後、データのみを伝える研究者に対して、「避難した方がいいのか」「人体に危険なのか」が、一般の人には分からないと批判する。細分化した研究者が、全体像を洞察する力を失ったありように驚かされる場面である。
 末尾に紹介される寺田寅彦の一文が胸を刺す。
「だれにも咎を負わせないように、実際の事故の原因を...不可抗力によったかのように付会してしまって、そうしてその問題を打ち切りにしてしまうようなことが...諸方面にありはしないか...」。
 著者の科学への誠実な姿勢が浮き彫りになり、震災の真相が明白になってくる。