TOP サイコ・クリティーク 増補新版 教育臨床論[サイコ・クリティーク6]

増補新版 教育臨床論[サイコ・クリティーク6]

  • 伊藤直樹編
  • 価格 1800+税円
  • 判型:46判、244ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0711-0
  • 初版発行年月 2020年3月10日
  • 発売日 2020年3月12日

内容紹介文


はじめに

『教育臨床論』の初版が刊行されてから10年が経過した。この間、学校や教師、そして、子どもたちをめぐる環境は急激な変化を遂げ、多くの新しい課題が見出されるようになってきた。
学校教育や教師に対する社会からの風当たりは強い。それどころか、初版の刊行から10年を経て、それはますます強くなってきたようにも感じられる。このことは大学の教職課程、すなわち、大学において教員免許取得のための授業を開設している教職課程への批判にもつながっており、2019年度からスタートした教職課程の新課程のための再課程認定においては、教員養成の質をさらに高めるべく、大きな変更がなされた。
学校教育における子どもたちの「心の問題」に対処するために、公立学校にスクールカウンセラーが導入されたのが1995年である。
「不登校」や「いじめ」問題を中心に学校現場の抱える課題の解決に資することが目的であったが、「不登校」も「いじめ」も一向に減少する様子は見られない。
もちろん、こうしたことは現場の教師の能力に問題があるとか、スクールカウンセラーが役に立っていないとか、そういうことを意味しているのではないと考えている。世界のグローバル化や、情報技術を中心としたテクノロジーの急激な発展に始まり、少子高齢化、多様な価値観や文化に対する社会の許容度の変化など、列挙すればキリがないほどの諸要因により、社会の複雑性がさらに増したことがこのことに大きく関わっているだろう。そのため、学校現場においても、これまでとは異なる難しさが生まれてきたといえるのではないだろうか。
こうした新しい諸課題を視野に入れて、子どもたちへのかかわりのあり方を再検討する必要性から、増補新版では、初版の内容を大幅に見直し、学校教育を取り巻く環境の変化を反映した内容とした。
また、学教教育の現場に実際に役立つよう、より具体的な記述を心がけた。それぞれの課題については、本書の各章で扱うため、ここでは触れないが、増補新版の刊行に際して重視したことは次のような点である。
第一に、学校をめぐる様々な人たちの「協働」の視点である。先述の通り、学校の抱える課題はさらに複雑なものとなっている。ひとりの有能な教師が課題を解決するとか、ある専門職が学校現場に導入されて課題を解決するというような時代はとうに過ぎ去っている。異なる専門性を持つ人々が良い関係性のもとに協働し、学校全体で課題の解決に取り組めるような工夫が必要不可欠である。
第二に、児童生徒、教師、保護者、専門職、関連機関、地域住民などを含めた全体的な関係性によりとらえる「システム」の視点である。教師が教室内で行った指導は、その教室内にとどまることなく、学校全体に影響を及ぼすし、逆に、地域で起きた変化は形を変えて、教室の中に影響を及ぼしてくる。これら全体の動きを俯瞰的にとらえるような視点を持つことが必要である。
本書は、著者らが大学において行っている教職課程の授業や心理学に関連する授業の内容をベースにしている。また、それぞれの著者がかかわっている学校現場や臨床現場での実践を通じて得られた内容を加味した上で構成されている。主として扱っている学校種は小学校、中学校、高等学校であるが、広く子どもたちへの教育を考えるのに資するような内容となるよう心がけた。それゆえ、教師をめざしている学生諸君にとどまらず、教師や保護者にも参考になるのではないかと思う。
また、本書は、教育職員免許法施行規則に定められている必修科目である「道徳、総合的な学習の時間等の指導法及び生徒指導、教育相談等に関する科目」のうち、「教育相談(カウンセリングに関する基礎的な知識を含む。)の理論及び方法」に相当する科目の内容を扱っている。
学術的な専門書とは異なり、記述はなるべく具体的にわかりやすく、読みやすくなるように心がけるとともに、学校現場における実践を踏まえた内容を扱うことを強く意識した。
本書が多くの方々にとって、学校教育を新たな視点から見直す機会につながれば幸いである。

2020 年1 月31 日
                                    伊藤直樹


あとがき

本書の増補新版を刊行するに際し、初版の刊行から10年の月日の間に起きた学校を取り巻く環境の変化が実に大きいことに改めて気づかされた。このためその作業には思いの外、時間を要することとなった。
教師をめざす人のための教育がいかにあるべきかを考える上では「理論と実践の往還」という視点、すなわち、学術的な理論が学校実践にどのように応用されうるか、逆に、学校における実践がどのように理論に還元されうるか、さらに、両者の過程を通じて、よりよい学校教育に資する知見が得られるかという視点が重要であることはいうまでもない。増補新版刊行の作業を通じて、この言葉の持つ意味に沿って知見を文章化することがいかに難しいことであるかについても痛感した。
本書の執筆者は、初等教育から高等教育までの幅広い領域でカウンセリングを中心に実践活動にも取り組んでいる。いずれの執筆者も成長途上の子どもたちや青年を支援する実践活動を行いつつ、自らの技術の向上のために、日々、研鑽を重ねている。大学における授業の中では、最新の専門知識とそれぞれの実践活動から得られた知見が学生に伝えられている。
本書をまとめたことで満足せず、足繁く学校現場に通い、常に学校が直面する課題を肌で感じつつ、また、大学における教員養成に要な事柄をふまえながら、次の時代の教師をめざす人のために何を伝えるべきか、今後も探求し続けていきたいと考えている。

最後になったが、本書刊行に際し、辛抱強くおつきあいいただいた批評社のスタッフの皆さんに、この場を借りて御礼を申し上げたい。
                                   (伊藤直樹)

【著者略歴】
伊藤直樹[いとう・なおき]
1967 年生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程中退、博士(人間学)現職 明治大学文学部教授、臨床心理士、公認心理師
著書に、『学生相談活動の発展に寄与する要因についての研究』(単著)風間書房、2018 /『教師をめざすため人のための青年心理学』(編著)学陽書房、2006 /『コミュニティメンタルヘルス』(分担執筆)批評社、2003 /『スクールカウンセリングの基礎知識』(分担執筆)新書館、2002

倉島 徹[くらしま・とおる]
1962 年生まれ。東京大学法学部卒。現職 明治大学兼任講師、青少年健康センター委託事業部門統括責
任者、中央大学学生相談室嘱託カウンセラー、精神保健福祉士 公
認心理師
著書に、『教師のためのスクールソーシャルワーカー入門』(分担執筆)大修館書店、2019 /『学校メンタルヘルスハンドブック』(分担執筆)大修館書店、2017 /『いのちの教育 はじめる・深める授業のてびき』分担執筆)実業之日本社、2003 /『社会的ひきこもりへの援助』(分担執筆)ほんの森出版社、2002

田中志帆[たなか・しほ]
1971 年生まれ。東京大学大学院教育研究科博士課程単位取得満期退学、博士(教育学)、臨床心理士、公認心理師現職 文教大学人間科学部臨床心理学科教授。明治大学、立教大学
非常勤講師、ほかスクールカウンセラー、大学学生相談室、精神科クリニック心理士として勤務。
著書に、『公認心理師技法ガイド』(分担執筆)文光堂、2019『青春期精神療法入門』(分担執筆)日本評論社、2017 /『教育臨床アセスメントとしての動的学校画』(単著)風間書房、2012 /『大学1、2 年生のためのすぐわかる心理学』(共著)東京図書、2012 /『よ
くわかる臨床心理学』(分担執筆)ミネルヴァ書房、2009

中野良吾[なかの・りょうご]
1966 年生まれ。東京大学大学院医学系研究科博士課程単位取得済み退学、学習院大学学生相談室相談員を経て現職 創価大学教育学部准教授、臨床心理士、公認心理師
著書、訳書に、『発達心理学?・?』(編著)創価大学通信教育部、2018 /『学校メンタルヘルスハンドブック』(分担執筆)大修館書店、2017 /『公認心理師への期待』(分担執筆)日本評論社、2016 /『教師をめざす人のための青年心理学』(分担執筆)学陽書房、2006 /『受験生、こころのテキスト』(分担執筆)角川学芸ブックス、2006

目次

はじめに

第1部 教育相談の基礎(伊藤直樹)

第1章 学校組織における教育相談の位置づけ
1.校務分掌と教育相談/2.保健室/3.教育支援センター(適応指導教室)

第2章 学校場面におけるカウンセリング?基礎編?
1.一般の人の持つ「カウンセラー」のイメージ/2.学校場面でよくある相談/3.一般の人が行いやすい対応の特徴/4.実際の相談に対応することの難しさ

第3章 学校場面におけるカウンセリング?発展編?
1.クライエント中心療法におけるカウンセリングの原則/2.ロジャーズのパーソナリティ理論/3.「自己」と「経験」の不一致/4.非指示的療法(非指示的アプローチ)/5.カウンセリングにおけるその他の留意点/6.教師とカウンセラー

第2部 学校が直面する様々な課題(伊藤直樹)

第4章 学級崩壊
1.小学校でこんなことが!/2.学級崩壊とは/3.「学級担任制」と「教科担任制」/4.学級崩壊の事例/5.学級崩壊の類型/6.学級崩壊への対応例/7.学級崩壊からの回復事例/8.学級崩壊への対応上の留意点/9.教師の児童生徒を見る視点と学級

第5章 いじめ?いじめの実際?
1.あらためて「いじめ」とは何か考えてみる/2.いじめと自殺/3.いじめられた生徒の気持ち/4.いじめた生徒の気持ち/5.教師といじめ

第6章 いじめ?いじめへの対応?
1.いじめの類型と構造/2.いじめとスクールカウンセラー/3.いじめの事例と対応上の留意点/4.新しいタイプのいじめ

第7章 不登校?不登校の実際?
1.不登校とは/2.不登校の現状/3.不登校のタイプと基本的なメカニズム/4.不登校の子どもの気持ちと保護者の気持ち

第8章 不登校?不登校への対応?
1.教師のかかわり/2.学校外の機関の活用/3.不登校の児童生徒の再登校の状況/4.心理療法を用いたアプローチ

第9章 学校を取り巻く環境の変化
1.チームとしての学校/2.特別支援教育の展開/3.児童虐待/4.教育相談に関連が深い専門職

第3部 思春期・青年期のこころの問題と学校(倉島徹・田中志帆・中野良吾)

第10章 社交不安障害・強迫性障害と学校における支援(倉島徹)
1.はじめに/2.社交恐怖(社交不安障害)/3.強迫性障害

第11章 摂食障害と学校における支援(田中志帆)
1.はじめに/2.どのような症状か/3.症状の背景・要因と治療方法/4.事例/5.学校での援助のポイント
第12章 境界性人格障害と学校における支援(田中志帆)
1.はじめに/2.どのような症状か/3.症状の背景・要因と治療方法/4.事例/5.学校での援助のポイント

第13章 うつ病と学校における支援(中野良吾)
1.はじめに/2.どのような症状か/3.症状の背景・要因と治療方法/4.事例/5.学校での援助のポイント

第14章 統合失調症と学校における支援(中野良吾)
1.はじめに/2.どのような症状か/3.症状の背景・要因と治療方法/4.事例/5.学校での援助のポイント

文献ノート

あとがき

関連書籍