• 新井 勉著
  • 価格 1500+税円
  • 判型:46変形判判、350ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0703-5
  • 初版発行年月 2019年9月25日
  • 発売日 2019年9月27日

内容紹介文

書き下ろし本格時代小説

田沼意次の嫡男山城守意知、殿中で斬られる!
法制史研究のエキスパートが史料を渉猟して構想した
武士社会の条理と不条理の狭間で強かに生きる、
徳川幕政下の人間模様をミステリアスな筆致で写する!

若き公儀目付土屋冬馬の周辺では、大店木曽屋の娘弥生の拐かし事件は未遂に終わるが、供の女中千草は惨殺されてしまう。尾張中将が不慮の事故か故意か判然としない田沼山城守の意地悪い振舞いに、あわや刃傷に及ぶと思われた殿中の椿事は冬馬の機転で事なきを得たが、山城守意知への襲撃や義弟の妻木采女への闇討ち事件が続発する。獅子身中の虫が蠢動し、旗本佐野善左衛門の不器用な振舞いが逆に災いを引き寄せ、水戸家の高井源四郎は、荊軻(秦王刺殺に送り込まれた衛の人)の役割を粟田口忠綱の脇差を手渡すことで山城守暗殺を唆す。「金とりて田沼るる身の憎さゆえ、命すてても佐野みおしまん」ともて囃されたが、善左衛門は切腹を申し渡され打ち首にされてしまう。

◆礫川全次氏によるアマゾンサイトのレビューから転載◆

新井勉氏の新刊『獅子の虫』(批評社、2019年9月)を読んだ。傑作だと思った。同時に、これは新しいタイプの時代小説ではないか、と感じた。
 新しいタイプの時代小説と感じたのは、この小説に次のような点を見出したからである。
? 基礎になる「史料」を踏まえていると思われる。
? 「小説」の割には、時代考証がゆきとどいている。
? これまでにないタイプの書き手による時代小説である。
この小説の著者は、法制史家として知られた新井勉氏である。法学部教授を定年で退職することになったのを機に、この大学を時代小説に取り組まれたという。時代考証がゆきとどいていることについては、法制史家としての氏の実績を考えれば納得がゆく。しかし、氏の専門は、近代日本法制史であったはずである。その氏が、江戸時代の法制度のみならず、江戸時代の風景、町並、習俗、衣装、食文化等々に詳しいことに驚かされた。それ以上に、ヨワイ七〇歳にして、時代小説家に転身しようとされた、その決断に驚いた。
おそらくこれは、氏の時代小説第一作である。しかし、そこに「習作」的な痕跡は見られない。あくまでも手慣れた文学作品であって、もちろん読んでも面白い。土屋冬馬という若きエリート武士を主人公に、その公私にわたる生活を、天明期という歴史的背景の中で、リアルに、かつ興味深く描いている。恋もあれば、また殺傷事件もある。
この小説には、はっきりとしたテーマがある。そのテーマは、『獅子の虫』というタイトルに示されている。このタイトルは、言うまでもなく「獅子身中の虫」という故事成語を踏まえている。安定しているかに見える組織でも、その内部から崩れることがあるという意味である。この小説の場合、その「内部」とは、その組織の中で「不当に冷遇されている」と感じている人々のことである。こうした人々の暗い情念が、往々にして、その組織を喰い破ることがある。たとえば、徳川御三家のうちの水戸徳川家が、徳川幕府を崩壊させたように。
なお、本書は、映画化されるにふさわしい文学作品だと思う。映像化されることによって、この作品の良さは、さらに際立つことであろう。この作品が、映画関係者の目にとまることを願う。

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