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「精神医療」94号 特集=措置入院

  • 責任編集=太田順一郎+中島 直+岡崎伸郎
  • 価格 1700+税円
  • 判型:B5判、128ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0696-0
  • 初版発行年月 2019年4月10日
  • 発売日 2019年4月12日

内容紹介文

巻頭言
措置入院
太田順一郎
Ota Junichiro
岡山市こころの健康センター
本誌編集委員

 措置入院は、1950年の精神衛生法制定時に導入された強制入院制度である。当時措
置入院という制度がどのような意図を持ってこの法律の中に組み込まれたのか、という
ことを明確に?むことは意外と難しい。例えば岡田靖雄は「知事の命令による強制入院
である措置入院制度は、精神病院法の知事命令による入院を、保護義務者同意による同
意入院の制度は、精神病者監護法による病院監置を踏襲したものである」(2002 日本
精神科医療史 医学書院)と、わが国の強制入院の系譜について説明している。
 一方、広田伊蘇夫は「この政府答弁から、精神病者の処遇に関わる当時の法構造を単
純に図式化してみると、精神病者監護法は『社会秩序維持』、『他者に対する危険の防止』
に力点を置き、警視庁令41号(1904年10月発)によって私宅監置室・公私立精神病院
等は警察行政下におかれ、治療的雰囲気もなく、いうならば、ポリス・パワー(police
power)の下での強制監置の法制であった。他方、精神病院法案の立法上の主旨は政府
委員の強調する『憐れむべき同胞の保護・治療』の発言からみて、パレンス・パトリエ・
パワー(parens patriae power)、つまり国家が『憐れむべき同胞』の親(parent of the
country)として病者を強制入院させ、保護・治療を行うことに力点を置く法制として提
案されたとみることができる。」(2004 立法百年史 批評社)と述べており、岡田とは
やや異なったニュアンスで精神病者監護法と精神病院法のスタンスを捉えているように
も見える。
 ともあれその後措置入院制度は、何度かの制度変更を経て、政策的に重要な位置を占
めることになる。1954年11月の局長通知により、生活保護の入院者の措置入院への切
り替えが促進され(もちろん措置要件に該当する者、という前提である)、続いて1961
年9月の事務次官通知により「措置要件該当者はできるだけ措置させることによって、
社会不安を積極的に除去すること」、そのために「当該者の医療費の公費負担を1/2から
8/10としたこと」が示され、措置入院の公安的性格が強化された。この公安的性格強化
の流れは1964年に起きたライシャワー事件によって加速され、1965年の精神衛生法改
正に?がることになる。1965年改正により申請・通報制度が拡大され、緊急措置入院
が新設された。この時期には措置入院患者数は全入院患者数の4割近くを占める状況が
続き、「経済措置」時代とも呼ばれる。予算規模で見ても、1978年度の精神衛生課の予
算約846億円のうち約791億円、93.5%が措置入院費補助金であった。
 措置入院患者数は1970年をピークとして減少に向かい、現在では全入院患者数の約
0.5%を占めるに過ぎない。措置入院は歴史的にさまざまな問題点が指摘されてきてお
り、それは、かつてはその社会防衛的性格であり、また経済措置と呼ばれる運用であり、
そして近年では都市部で顕著に認められる精神科救急の道具としての役割であった。運
用の自治体間格差を指摘されることも多かった。そのようにさまざまな問題点を抱える
措置入院制度ではあったが、その圧倒的な数の少なさから、手直しの対象になりにくく、
等閑視されてきた感がある。
 2016(平成28)年7月に起きたいわゆる相模原事件により、突然措置入院制度が注目
を浴びることになった。措置入院制度の見直しは、すでに動き始めていた精神保健福祉
法改正の作業の中に組み込まれ、2つの検討会での議論を経て、2017(平成29)年3月
には国会に上程される運びとなった。2017(平成29)年5月17日、精神保健福祉法改正
法案は参議院本会議にて採択され、衆議院に送られた。ところが同法案は、衆議院にお
いて審議入りする前に会期が終了したため、他の諸法案と一緒に継続審議となった。大
方の予想では、この改正法案は秋の臨時国会に送られて衆議院にて審議入りするものと
思われていた。
 ところが、2017(平成29)年9月28日、秋の臨時国会において突然の冒頭解散が実施
され、総選挙に突入する運びとなった。このため一度参議院を通過した改正法案は廃案
となる。その後平成30年2月に始まった通常国会に、厚生労働省は他の7本の法案とと
もに精神保健福祉法改正案の再提出も予定していたのだが、結局この会期中にこの法案
を上程することはできなかった。このため法改正の行方は見えにくくなってしまったの
だが、改正法案に含まれていた措置入院制度の見直しは、平成30年度診療報酬改定に
組み込まれ、法改正が実現しないまま平成30年3月に発出された部長通知「『地方公共
団体による精神障害者の退院後支援に関するガイドライン』について」によって実施さ
れることになった。
 平成29年4月に参院に提出された精神保健福祉法改正案における措置入院見直しの
具体的な内容としては、精神障害者支援地域協議会の設置、措置自治体による退院後支
援計画の策定、帰住先の保健所設置自治体による退院後支援計画に基づいた相談指導、
支援対象者の移転時の自治体間での情報通知、および入院中の退院後生活環境相談員の
選任などが挙げられていた。2017(平成29)年4月? 5月の約40日間、参議院厚生労働
委員会において交わされた論議では、このいずれもが強い批判にさらされることになっ
た。退院後支援計画の策定については、入院が比較的短期である場合には、退院後支援
計画を作成するために入院期間が不要に長くなってしまうのではないかという懸念が示
された。また、精神障害者支援地域協議会の個別ケース会議への患者本人及び家族の参
加が、当初「必要に応じて」と概要資料に書かれていたため、支援者側、治療者側によ
る一方的な支援計画の押し付けになるのではないか、との厳しい批判もあった。また、
精神障害者支援地域協議会に警察が参加することについての強い懸念も野党側からは繰
り返し表明された。
 結果として参議院本会議において精神保健福祉法改正案が採択された時点(2017年5
月17日)で、当初の改正法案はいくつかの修正を加えられることになった。また、附則
の修正と同時に18項目に及ぶ附帯決議が採択された。附帯決議においては、「本法律案
は特定の事件の発生を踏まえた犯罪防止を目的とするものではなく、精神障害者に対す
る医療の充実を図るものであること」が明示されることになった。改正の経緯からすれ
ば、これが事実と異なることは誰の目にも明らかであったが。
 上記のような参議院における議論にもかかわらず、結局精神保健福祉法が改正されな
いまま、という予定外の形で措置入院制度の見直しが行われることになった。2018(平
成30)年4月には自治体担当者向けの説明会が行われ、すでに退院後支援計画も、ニー
ズアセスメントも、個別ケース会議も実際の運用が始まっている。今回の特集では、歴
史的に見た措置入院の問題点をあらためて再検討するとともに、さまざまな批判を受け
ながら動き始めた新しい措置入院制度について、現場の状況も確認しながら、現時点で
見えてきた課題を検討したい。

【編集後記】 
相模原事件の影響は大きかった。直接の被害の甚大さもさることながら、私たちのよって立つ基盤を揺るがしたからである。前号では優生思想を扱った。これは、事件の背景にあり、歴史上のものとして扱われることが多いが、実は現在もきわめて強大に存在し、抗いがたい力を持っている。批判だけしていて済む問題ではない。
 今号の特集は措置入院である。言うまでもなく、この事件の実行者とされる人が直近に措置入院歴を有し、その後のフォローが問題となって、「措置入院者の退院後支援」が俄に俎上に載ったからである。その趣旨は明らかに監視であった。この課題を事実上の最大の主眼とした精神保健福祉法改訂は当事者を中心とした反対運動によって崩された。しかし、「退院後支援」は、入院形態を限定せず、退院者本人の意思を尊重するという体裁ではあるが、
行われることとなった。「監視」も実は私たちの日々の臨床と無縁とは言えない。また翻って、措置入院はいろいろな意味で医療機関の経済的基盤ともなっている。批判だけでは済まないのは同じである。
 今号では多くの論点を扱ったが、論じきれなかった課題も残っている。また取り上げていくことになるのであろう。 (中島 直)

【お詫びと訂正】
◆本誌92号の「紹介」欄におきまして、「保安処分構想と医療観察法体制?日本精神保健福祉士協会の関わりをめぐって」の御著者につき、「桶澤吉彦」氏と記しておりましたが、正しくは樋澤吉彦氏でした。樋澤先生をはじめとして、多くの御関係の方々にご迷惑をおかけいたしました。ここにお詫び申し上げるとともに、訂正をさせていただきます。

目次

巻頭言◆措置入院
…………………………………………………………………………………………太田順一郎 003
座談会?措置入院
…………………………………………平田豊明+中島 直+大塚淳子+[司会]太田順一郎 008
精神保健福祉法の医療基本法(仮称)への統合的解消と治療同意の意味
……………………………………………………………………………………………池原毅和 042
措置入院者の退院後支援
―医療機関の精神保健福祉士の立場で… ……………………………………………澤野文彦 050
新たな保安処分推進派イデオローグの誕生を論評する
…………………………………………………………………………………………富田三樹生 058
措置入院制度の現状について
…………………………………………………………………………………………瀬戸秀文  066
精神障害者の退院後支援について
……………………………………………………………………………………………田所淳子 075
コラム+連載+書評
視点―55◆この国から看護が消滅してしまう
―「特定行為に係る看護師の研修制度」がもたらすもの… ………………………東  修  083

連載?異域の花咲くほとりに―10
インフォームド・コンセントについて
………………………………………………………………………………………………菊池 孝 089

連載◆神経症への一視角―7
神経症から不安障害へ
―当事者の視点から対処行動を自己治療として見直す……………………………上野豪志 097

連載◆―6
精神現象論の展開(6)
……………………………………………………………………………………………森山公夫 104


コラム? 精神障害者の死に場所をめぐり思うこと
…………………………………………………………………………………………木村亜希子 110

紹介◆『「当たり前」をひっくり返す―バザーリア・ニイリエ・フレイルが奏でた「革命」』
竹端寛著[現代書館刊]………………………………………………………………大塚淳子 117

特別集中連載◆―2
袴田巌さんの主治医になって
………………………………………………………………………………………………中島 直 118


編集後記……………………………………………………………………………………中島 直 128

バックナンバーのご案内…………………………126
次号予告………………………………………… 127

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