TOP 花園大学人権論集 「社会を作る人」を作る [花園大学人権論集 26]

「社会を作る人」を作る [花園大学人権論集 26]

  • 花園大学人権教育研究センター編
  • 価格 1800+税円
  • 判型:46判、240ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0693-9
  • 初版発行年月 2019年3月20日
  • 発売日 2019年3月25日

内容紹介文

はしがき

 本書は、花園大学人権教育センターの出版物の中で市販されているシリーズ『花園大学人権論集』の第二六巻です。本書では、二〇一七年一二月に開催された第三一回花園大学人権週間における講演三本と、二〇一八年度の公開研究会での講演四本を収めており、センターのほぼ一年間にわたる人権についての取り組みを大学内外に発信するものです。
本書掲載の、昨年の人権週間でご講演いただいた方々の講演三本は、現代日本の人権状況を俯瞰する上で極めて有益な論稿となっています。
 まず、白井聡さん(京都精華大学人文学部教員)は、「戦後日本とは何であったのか」で、戦後日本の政治体制が、最高法規であるべき憲法の上に日米安保体制が君臨し、アメリカに従属する体制であることを、「敗戦の否認」というレトリックによって暗黙の前提にしていることを喝破されています。私たちは、日頃はアメリカによる支配を特段感じることなく日常生活を送っています(これは日本の米軍基地の六割が沖縄に集中していることが要因でもあるのですが)。しかし、沖縄における、二〇一八年一二月一四日に辺野古への海への土砂投入の強行を目の当たりにしたとき、現政権のなりふり構わぬ対米追随の醜悪な本質を改めて感じざるを得ませんでした。それも、二〇一八年九月の沖縄県知事選で辺野古への基地建設に反対する玉城デニー知事の圧勝した直後であるにもかかわらず、政府は沖縄の民意を踏みにじる暴挙に出たのでした。
 花園大学人権教育研究センターは、二〇一七年まで、毎年の夏のフィールドワークでは、沖縄を訪問してきました。それは、沖縄の問題が日本の縮図であり、また矛盾の象徴ともいえる問題であるとの認識の下に、定点観測的に毎年その状況を人権を学ぶ生きた教材にしてきたのでした。二〇一六、二〇一七年は、辺野古の基地建設状況などについて、現地の浦島悦子さん(フリーランスライター)らからの説明を受け、連帯の意思を表明してきたところです。
 政府の暴挙にもかかわらず、沖縄では来年早々にも、辺野古への基地建設反対を問う県民投票で、基地建設反対の民意を重ねて示すべく準備が進んでいます。こうした沖縄での正々堂々たる、あきらめない、粘り強い動きを沖縄だけのものにしておくわけにはいきません。白井聡さんは、「遠からず本土の日本人は、沖縄のより一層激しい反基地運動、あるいは独立運動に直面することになるでしょう。そのとき、私たちは自決・自己決定を求める沖縄の要求は、本来われわれもまた掲げなければならないものであったことに、気づくことになるはずです」(内田樹・白井聡『属国民主主義論』)と予言されていましたが、まさにその通りの状況が生まれています。私たちは、「事態打開のカギは政権の政治判断、ひいては本土の世論が握っている」(三山喬「沖縄アイデンティティのポジティブな変容」『世界』二〇一八年一二月号)という状況認識を肝に銘じ、本土で様々な沖縄連帯の取り組みを進めることと同時に、日本の戦後の支配構造を直視した取り組みを行う必要があると思います。
 また、内藤れんさん(れいんぼー神戸代表)からは、「セクシュアルマイノリティを知る─みんなが生きやすい社会・学校を目指して」と題して、みずからのLGBTの生き方を通して、現代社会において、どのような生きづらさがあるかをお話しいただきました。LGBTについてのわかりやすい基礎知識の学習として、また当事者の思いを知ることの重要性を学ぶことでできました。
 さらに、小林敏昭さん(前「そよ風のように街に出よう」副編集長)は、「生きるに値する命とは?─相模原障害者殺傷事件と私たち」で、日本社会を震撼させた相模原障害者殺傷事件から私たちが学ぶことはなにか。容疑者の異常ともいえる考え方(重度障害者は生きる価値がない)が、けっして特異なものではなく、優生思想の蔓延が背景にあることなどをお話しいただきました。命とか、人間とはどのような存在なのか、など人権についての根源的な学びとなったと思います。
 さて、二〇一八年は、国連で世界人権宣言が採択されて七〇周年でした。世界人権宣言は、世界大戦の惨禍やホロコーストを二度と起こしてはならないという反省の下に、基本的人権を確認しました。日本国憲法は世界人権宣言に先立って施行されていますが、世界人権宣言の精神を体現したものであることは明らかでしょう。
 しかしながら、世界の人権状況は、難民やテロ、ヘイト勢力の台頭など厳しい状況にあります。
 日本においても同様の傾向があります。ただ、一昨年二〇一七年には、米朝対立が東アジアの緊張を高めていた状況が、二〇一八年には、誰も予想できなかった北朝鮮と韓国のトップ同士の会談が実現し、続いて初の米朝首脳会談が行われ、東アジア情勢は一変をしています。
 また、日本においても、前述の沖縄県知事選挙での玉城デニー知事の圧勝によって、平和的生存権や、沖縄県民の心をつかんだ故翁長沖縄県知事の「沖縄のアイデンティティー」という言葉によって、地方自治の重要性が示されています。さらに、優生保護法による強制断種等に対して国に賠償を求める裁判が全国で提訴され、解決策が模索されています。これを後押ししているが、いつもは論調を異にしている朝日、毎日、読売、産経など主要新聞が、国が責任を果たすように社説で一致して求めていることです。
 現政権は、憲法九条の改正に執念を燃やしており、人権をめぐっては予断を許さない情勢は続くと思われますが、世界人権宣言七〇年の重みに確信をもって、当センターとしましては、着実に人権擁護の取組みを進めてまいる所存です。
 本書の出版に当たっても、批評社には格別の労をとっていただきました。出版事情の厳しい折に、本書出版の意義をご理解下さった編集スタッフをはじめとする関係者に対して、厚くお礼を申し上げます。また、本書出版の意義を認めて格別の助成をくださった花園大学執行部にも、深甚の謝意を表します。

 二〇一九年三月
花園大学人権教育センター所長(社会福祉学部教授) 吉永 純

目次

もくじ

はしがき………………………………………………………………………………………3


後日本とは何であったのか………………………………………………………………◆白井 聡 13

●戦後ってどんな時代ですか?●危機的状況にある人権●考えない八割●『永続敗戦論』執筆の動機●無責任の体系●敗戦の否認●敗戦否認の構図●敗戦否認のツケ●さいごに


セクシュアルマイノリティを知る―みんなが生きやすい社会・学校を目指して
……………………………………………………………………………………………◆内藤れん 43

●導入●四つの指標●用語説明●性同一性障害●注意した方がいい言葉●性分化疾患四つの指標・れんの場合●データ●日常生活で困る事●よくある誤解●カミングアウト●行政の取り組み


生きるに値する命とは?
―相模原障害者殺傷事件と私たち…………………………………………    ◆小林敏昭 80

●『そよ風』誌の終刊●補完と錯覚●情報戦争の中の私たち●親による障害児殺しと青い芝の会●一九七〇年代の青い芝の会の闘い●『そよ風』誌の三八年●相模原障害者殺傷事件と私たち●生きるに値する命、値しない命─優生思想の過去と現在●さいごに─


障害者たちからもらったもの健康で文化的な最低限度の生活はどこへ?
―生活保護基準引き下げの意味……………………………………………    ◆吉永 純 113
●はじめに─生活保護は市民生活の「岩盤」●貧困大国・日本─六・四人に一人が貧困●貧困線は下がる一方、貧困率は上昇する日本●最近の生活保護─ここ三年で四万人の減少●どういう人が貧困になりやすいのか●貧困がもたらすもの─孤立●若者をむしばむ貧困●生活保護費、基準はどうやって決まるか?●生活保護基準は様々な社会保障給付の目安●二〇一八年一〇月からの生活保護費引下げの内容●二〇一三年からの引下げに続く引下げ●住宅扶助の引下げ●二〇一八年引下げの問題点─「低きに合わせる」●健康で文化的な最低生活費をどうやって決めるか●子どもの貧困対策に逆行●生活保護と大学進学●おわりに


だれもが生まれてよかったと思える社会に
―大学生と行政でつくる小学校への「主権者教育」の取り組みを中心に
   ……………………………………………………………………      ◆中 善則 138

●はじめに●社会科の初心─だれもが生まれてよかったと思える社会に●大学生と行政でつくる小学校への「主権者教育」の取り組み●「私たちの社会」という発想へ─だれもが生まれてよかったと思える社会に●(質疑応答)


児童虐待の社会的コスト
………………………………………………………………………………………… ◆和田一郎 170

●児童虐待の現状と課題●限りある予算の中で●各国で行われる虐待の社会的コスト●日本における虐待のコストを算出する●虐待コスト研究の社会への影響●今後の虐待コスト研究


ビリーブメントケアにおける仏教の役割
…………………………………………………………………………………………◆西岡秀爾 196

●はじめに●遺族の宗教意識●法事のプラス面●法事のマイナス面●法事のグリーフケア機能●墓のプラス面●墓のマイナス面●仏壇のプラス面●仏壇のマイナス面●遺骨信仰(遺骨へのこだわり)●遺骨安置のプラス面とマイナス面●納骨のプラス面とマイナス面●死別悲嘆を前に仏教ができること●はじめに●(質疑応答)

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