TOP 歴史のなかの闇を探る地域史と民俗 祈りの記憶 長崎と天草地方の潜伏キリシタンの世界

祈りの記憶 長崎と天草地方の潜伏キリシタンの世界

  • 松尾 潤
  • 価格 1700+税円
  • 判型:A5判、168+口絵15ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0681-6
  • 初版発行年月 2018年6月10日
  • 発売日 2018年6月12日

内容紹介文

はじめに
2018年5月3日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の諮問機関、国際記念物遺跡会議(イコモス)は、「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」を世界文化遺産に登録するようユネスコに勧告した。
6月24日から7月4日まで中東のバーレーンで開かれる第42回ユネスコ世界遺産委員会で正式に登録が決まる。
2018年5月現在、日本には21件の世界遺産があるが、潜伏キリシタン遺産ほど紆余曲折の道をたどった遺産はほかにない。ひとたびは政治決着に、二度目はイコモスの厳しい指摘にはね返された。
民間の登録運動が始まってから実に17年目にしての悲願の世界遺産登録となる。多くの関係者や県民と同じように、長崎新聞記者として取材を続けてきた筆者も、やはり感慨深いものがある。
長崎県は西の果てに位置するが故に、太古の昔から海を介して異文化と交流してきた。キリスト教も海を渡ってやって来た。現在、県内のキリスト教徒は6万人を超え、国内ではとりわけ多い地域だ。
これは常に新しい文化を取り入れて伝統の中に生かしてきた長崎県の特性と無関係ではないだろう。

潜伏キリシタン遺産は、国際色豊かで多様な文化が息づく長崎県の歴史風土の代表例といっていい。
長崎県には既に世界文化遺産がある。西洋の技術を取り入れて急速に発展した近代日本の産業化を物語る「明治日本の産業革命遺産」である。岩手から鹿児島まで8県11市の23施設で構成しており、「軍艦島」として知られる「端島炭坑」など長崎市内の8施設も含まれる。
産業遺産も潜伏キリシタン遺産も、長崎県の豊かな東西交流の歴史から生まれた。産業遺産が「モノと技術」ならば、潜伏キリシタン遺産は信仰の自由を得た「心」の近代化だった。両遺産によって、パズルのピースが一つになったように日本近代化の物語が鮮やかに描き出されるだろう。
本書は、潜伏キリシタン遺産と長崎・天草地方の潜伏キリシタンの信仰文化を広く知ってもらうための本である。第一章では遺産の概要を紹介した。歴史的な背景や世界遺産としての価値、登録までの経緯、今後の課題に触れた。
第二章から第四章は過去に長崎新聞に掲載した連載や特集の記事をまとめ、一部加筆、修正した。
登場人物の肩書や年齢は掲載当時のものである。中には亡くなった方もおられる。こうして一冊にまとめてみると、出会った一人一人の顔と声が懐かしく思い出される。
本書によって潜伏キリシタン遺産と長崎県の歴史文化に関心を持ち、現地を旅して、土地が靴の裏から語りかけてくる記憶を感じ取っていただけたら幸いである。

【著者略歴】
松尾 潤(まつお・じゅん)
1968年長崎市生まれ。早稲田大教育学部卒。1993年、長崎新聞社に入社、報道部に
配属。経済、教育、警察、県政を担当。運動部、大瀬戸支局長、整理部を経て2006
年から8年間、生活文化部で主に歴史、文学を担当。2014年から報道部で世界遺産を
担当し、2015年7月にドイツ・ボンで開かれた第39回ユネスコ世界遺産委員会を取材。現職は報道部次長。共著「龍馬と弥太郎 長崎風雲録」(長崎新聞社)。

スタッフ担当者
写真......荒木勝郎、園田光良、出口浩二、濵?武、森慶太、吉田利一
グラフィック......林田真理子、藤尾祥帆

目次

【目次】

はじめに…………001

第一章
遺産の概要……………………………………………………011
長崎県とキリスト教…………012
■盛んなキリスト教信仰 012/■伝来と繁栄 012/■弾圧と潜伏 014/■復活とかくれリシタン016
世界遺産としての価値…………017
■世界遺産とは 017/■潜伏キリシタン遺産の世界遺産価値 018/■潜伏キリシタンの信仰 018■4つの段階 019/■12の構成資産 020/■潜伏とかくれの違い 021
登録までの道のり…………023
■民間運動 023/■2度の「落選」023/■イコモスの指摘 024/■悲願の登録 026
潜伏キリシタン遺産の課題…………027■過疎化 027/■祈りの場を守る 028

第二章
世界遺産への旅……………………………………………………031
原城跡(長崎県南島原市)…………032
「島原の乱」激戦の舞台 禁教政策強化の契機に
コラム/人の業 問い掛ける 036
平戸の聖地と集落?春日集落と安満岳(長崎県平戸市)………… 038
異なる宗教が共生 重なり合う信仰のかたち
コラム/おおらかな宗教観 042
平戸の聖地と集落?中江ノ島(長崎県平戸市)…………044
殉教地に染み出る聖水 かくれ信者の崇敬集める
コラム/消えゆくかくれキリシタン 048
天草の?津集落(熊本県天草市)…………050
漁村に根差した信仰 踏絵の場に立つ天主堂
コラム/「証拠」残る唯一の資産 054
外海の出津集落(長崎県長崎市)…………056
予言の神父 待ち続け 日繰り伝承 教え受け継ぐ
コラム/対立を超えた祈り 060
外海の大野集落(長崎県長崎市)…………062
神道装いひそかに信仰 土地に残る「かくれ」の記憶
コラム/外海キリシタンの移住 066
黒島の集落(長崎県佐世保市)…………068
牧場跡に移住、開発 寺院に隠したマリア観音
コラム/求められる特性 072
?野崎島の集落跡(長崎県小値賀町)…………074
神道の聖地に隠れ住む 険しい地形で苦難の生活
コラム/謎の奇岩「王位石」 078
頭ヶ島の集落(長崎県新上五島町)…………080
病人の療養地に入植 仏教徒の開拓指導者と協力
コラム/キリシタンの天国 084
久賀島の集落(長崎県五島市)…………086
新天地求め未開地へ 「牢屋の窄」で苛烈な弾圧
コラム/教会建てた島の大工 090
奈留島の江上集落?江上天主堂とその周辺(長崎県五島市)…………092
ひそかな信仰の終焉 地勢に適応した教会建築
コラム/小さな集落の大きな心 096
大浦天主堂(長崎県長崎市)…………098
2世紀ぶり 宣教師と「再会」 続々信仰表明 禁教令撤廃へ
コラム/人権の扉を開いた姉妹 102

第三章
特集・ルポ……………………………………………………105
【平戸の聖地と集落(中江ノ島)】かくれキリシタンのお水取り…………106
岩をつたう殉教者の「血と涙」
【外海の出津集落】雪のサンタ・マリア…………111
信仰支えた聖母の微笑
【久賀島の集落】信徒が消えた集落…………115
山に返った苦難の地 山中に残る墓地、教会跡
【大浦天主堂】「信徒発見」 の背景………… 124
潜伏キリシタンを支えたオラショ、予言
【大浦天主堂】浦上キリシタンの信仰…………131
親から子、子から孫へ

第四章
かくれキリシタン再考……………………………………………………141
謎…………142
生月と外海 異なる信仰形態
生月…………145
禁教以前の形態残る
外海…………148
再布教の痕跡目立つ
五島…………151
移住は「経済的事情」
石…………154
「神が与えた地」の象徴
組織…………157
欧州の信心会が起源
継承…………160
貿易拠点に残った信仰
祈り…………163
受け継がれる心の祈り

主な参考文献…………167

関連書籍