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「精神医療」90号 特集=少年法改悪に反対する

  • 木村一優+高岡 健=責任編集/「精神医療」編集委員会=編集
  • 価格 1700+税円
  • 判型:B5判、128ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0678-6
  • 初版発行年月 2018年4月10日
  • 発売日 2018年4月12日

内容紹介文

巻頭言
少年は守られなければならない
木村一優(多摩あおば病院)

病棟で仕事をしているときに一本の電話が入りました。本誌の責任編集を共同でやらせていただいている高岡健先生からのものでした。要件は、日本児童青年精神医学会の子どもの人権と法に関する委員会の委員になってもらえないかというものでした。少年法の改正などがなければ、年に4回程度委員会があるだけだから、と言われました。振り返ってみますと、この電話でずいぶん私の人生が変わったのかもしれません。実際は4回どころではなく、委員会以外にも多くの仕事をするようになりました。そう考えますと、本誌において「少年法」特集で、高岡先生と共同で責任編集をやらせていただき、また巻頭言を書かせていただいているのも感慨深いものがあります。

さて、少年、ということで私が思い出すのは、大学時代のサークルです。私が所属していたサークルには、同学年の男子学生が5人いました。そのうちの一人が「少年」と呼ばれていました。またもう一人は「じじ」と呼ばれていました。「おっさん」みたいに扱われている奴がいました。どうしてそう呼ばれたのかは思い出せません。私ともう一人の奴は、アウトローで、ずっと仲良くしています。4年前に急死しましたが。彼と私が好きだったのが、チェッカーズの「ティーンネイジドリーマー」という曲のフレーズが気に入っていました。私たちは、少年でも、成人でも、老人でもなく、青年だったのでしょう。少年期が終わり、青年期に入ると、青年たちは家族から離れアウトローの位置を取ります。青年たちは誰もが不良なのです。

そんな個人的な体験があってか、私は、青年期に興味を持ち、とりわけ反社会的傾向に関心を向けるようになりました。

Winnicott は、情緒的発達と環境について考察を深め、情緒的?奪がなされる環境下に置かれると、青年たちは、対象を求め反社会的傾向をもつようになると言います。
今で言うエビデンスがあるわけではないのですが、そうだと思います。一方で多くのリサーチもなされております。紙面の関係上詳細は避けますが、例えばFarrington によると、非行は、青年期にピークとなり、成人になるにしたがって減少すると言い、Moffittらは、少年期に始まった素行症は、慢性的な非行の高いリスクになる一方で、青年期に始まった場合は、一時的なものであるという見解を示しています。環境の影響により、青年期には反社会的傾向になるわけです。だからこそ少年期と成人期の間の時間を見守り、大切にすることを私たちはこれまで考えてきたのだと思います。

源氏物語で、光が元服したのは12歳でした。それは全54帖の第1帖「桐壺」でのことです。それ以降光は成人として生きていきます。第1帖で少年期から成人期へ移行します。現代社会では、大人たちは少年たちを学校に行かせて、青年期を作りました。作られた以上は、青年たちは、青年期を享受し始めます。「理由なき反抗」にこころを揺り動かされるのもこうした事情でしょうか。反抗にはどうやら理由があるようです。

さて、私が、少年法と少年事件について向き合うことになったのは、板橋両親殺害事件でした。これもまた高岡先生が私をこの弁護団に紹介してのことでした。私は虐待を受けてきたこの少年の情状鑑定を引き受け、法廷で証言したわけですが、執拗に攻撃を加える大人たち(このときは検察官でした)に私は強い違和感を覚えました。私は、この少年は守られなければならないと思いました。大人たちは彼を少年ではないとみなしたわけです。

なぜ大人たちは、自分たちで作り、これまで大切にしてきた少年期と成人期の間の時期を今なくそうとするのでしょうか。

まさか、少年事件の被害者感情を考慮してということでしょうか。被害者や被害者の家族とその関係者は、事件を起こした少年が少年法のもとで保護されていることに憤りを覚えるのでしょう。被害に遭うほど非のない被害者や被害者の家族とその関係者は、心身ともにひどく傷つけられます。こうした被害者や被害者の家族と関係者を救いたいと思うのは至極当然のことです。けれどもたぶん、被害者や被害者の家族の関係者を助け守る術を、大人たちは、持てないようです。ですから大人たちは、少年期と成人期の間の時期をなくすことで、少年を守り、そして被害者と被害者の家族や関係者を守るつもりなのでしょう。けれども被害者と被害者の家族や関係者がこれで守られているのかは、私には疑問です。なぜならば、いくら加害者を攻撃しても、生じてしまった被害が消えることはないからです。失われたものに向き合う勇気が私を含めた大人たちにはないのでしょう。

私は、板橋両親殺害事件の少年を守らなければと思いました。それは、少年の不遇を知り、少年の発達を考えてというのもありましたが、感覚的に生じたこの感情は、たぶん、少年のことを弱い存在だと思ったからだと思います。誰かに助けてもらわなければ私たちは生きていけません。弱い存在を助けたいという思いは、社会をつくらなければ生きていけない人類が人類であるがゆえにもっている本能のようなものに思います。被害者と被害者の家族や関係者を守りたいと思うのも、彼らが弱い存在だからなのでしょう。けれども、少年期と成人期の間の時期に生きる弱い存在を攻撃し、被害者と被害者の家族や関係者という弱い存在に向き合わないまま「守った」というアリバイを作り逃げ出すことが、少年法適用年齢引き下げ問題には含まれています。

そして、少年事件の背景には少なからず児童虐待や障害に対する不適切な対応が存在します。そもそも少年たちは、守られるべきなのに、攻撃されてきたわけです。さらに、実質的な問題として、18?19歳の年長少年に少年法が適用されなくなれば、彼らに対する虐待・不適切養育や、彼らの有する障害・疾患への対応が等閑視されたまま、単なる刑事罰が与えられるだけの結果に陥り、更生にはつながらなくもなります。

少年法適用年齢は、引き下げられるべきではありません。

少年は守られなければならない。


●編集後記
毎日新聞をはじめとする各メディアが、旧優生保護法下での強制不妊手術をめぐる訴訟について、連日、大きく報道している。
本稿執筆時点で、仙台・札幌・東京の各地裁に、4人が提訴、もしくは提訴予定だという。報道の中で、小誌にも何度か執筆していただいたことのある岡田靖雄医師は、「自分が手を貸した事実は隠さない」と明言した上で、「国は早急に実態を調査し、強制的に手術を受けた人たちに十分な償いをすべきだ」「真相を究明するためにも、多くの人が訴え出てほしい」とコメントしている。
 強制不妊手術に関しては、旧社会党系県議の求めに応じる形で宮城県が件数を急増させていたことも、報じられている。このことについて、社民党党首は「社会党時代のこととはいえ〔中略〕心からおわびする」と述べたという。だが、ほんとうに必要なのは、謝罪よりも、敗戦後に旧優生保護法がつくられたとき、当時の社会党の国会議員が果たした役割の検証ではないだろうか。
 優生思想の問題は、相模原殺傷事件との関連でも、重要な主題を内包している。この問題を、小誌でも特集などの形で取り上げることができないか、検討を開始したいと思う。というのも、このままでいけば、裁判およびその結果を受けた救済処置のみ(もちろん、それも重要であることは間違いないが)に、議論が収束しかねないからだ。超党派議連の事務局長に社民党副党首が就任する見通し、といった報道を読むと、大戦中の国民優生法下で増えなかった手術数が、なぜ戦後になって急増したのかといった基本的視点すら、不問に付されてしまうのではないかと感じる。そうなってしまえば、形を変えた現在の優生思想に、道を譲るだけの結果になるのは、眼に見えている。
 ところで、今号には、興味深い投稿論文を、収載することができました。これからも、読者各位からの、積極的な御寄稿をお待ち申し上げます。左記の投稿規定をご覧の上、玉稿をお寄せください。 (高岡 健)

[投稿規定]
*広く投稿を歓迎します。既成の学術雑誌の枠を超えた問題提起、討論、論文、エッセイを期待します。
*論文:400字原稿用紙20枚まで
*討論・エッセイ等:400字原稿用紙2-12枚
* 原稿のコピーは必ず保存して下さい。
*原稿は返却いたしません。編集委員会で採否を決めてご連絡いたします。
*プリントアウトした原稿を3部、以下へ送ってください。

190-0022
立川市錦町3-1-33
にしの木クリニック内「精神医療」編集委員会

目次

「精神医療」90号
特集=少年法改悪に反対する

巻頭言 少年は守られなければならない……………………………………木村一優003

鼎談 少年法適用年齢引下げをめぐって
……………………………………………… 川村百合+芹沢俊介+[司会]高岡 健008

成年年齢引き下げと少年司法………………………………………………… 岩本 朗028

児童精神医学の観点から「18歳問題」を考える…………………………… 富田 拓037

少年刑法犯の動向と少年法の改正論議
―少年法の改正はいま必要なのか? ……………………………………… 土井隆義045

少年法適用年齢引き下げに関する一考察………………………………… 山田麻紗子056

少年法適用年齢について考える
―精神鑑定の経験から…………………………………………………………木村一優066

少年法適用年齢をめぐる法的・刑事政策的問題………………………… 武内謙治072


コラム+連載+書評
視点―51 障害者の権利に関する条約の今…………………………………関口明彦084

連載 異域の花咲くほとりに―6
妄想について(2)……………………………………………………………… 菊池 孝091

連載 神経症への一視角―3
神経症から不安障害へ
―神経症の軽症うつ病への取り込み(1)… ………………………………上野豪志099

連載―2
精神現象論の展開(2)…………………………………………………………森山公夫105

コラム「教える」ことのためらい…………………………………………近田真美子112

紹介『ハイパーアクティブ:ADHDの歴史はどう動いたか』
マシュー・スミス著/石坂好樹・花島綾子・村上晶郎訳[星和書店刊] 高岡 健117

投稿  発達障害における「グレーゾーン問題」に関する私見…………… 石井 卓119

編集後記………………………………………………………………………… 高岡 健128

次号予告…………………………………………098

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