TOP 花園大学人権論集 広がる隣人との距離─制度の狭間で見えなくなる困窮[花園大学人権論集]

広がる隣人との距離─制度の狭間で見えなくなる困窮[花園大学人権論集]

  • 花園大学人権教育研究センター編
  • 価格 1800+税円
  • 判型:46判、224ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0677-9
  • 初版発行年月 2018年3月20日
  • 発売日 2018年3月25日

内容紹介文

はしがき

本書は、花園大学人権教育センターの出版物の中で市販されているシリーズ『花園大学人権論集』の第二五巻です。本書では、二〇一六年一二月に開催された第三〇回花園大学人権週間における講演三本と、二〇一七年度の公開研究会での講演四本を収めており、センターのほぼ一年間にわたる人権についての取り組みを大学内外に発信するものです。
この一年間のセンターの活動の特徴としては、公開研究会が一〇〇回目の節目を迎えたことです。
振り返りますと、第一回目は、一九九二年一〇月に開催され、中尾良信先生(本学文学部教授、センター前所長)が「仏教の戒律と人権」というテーマで報告されています。そして、今年二〇一七年七月の記念すべき第一〇〇回目は、奇しくも第一回目と同じく中尾良信先生が「つまづきの石─曹洞宗の差別事象をふり返る─」と題して報告されました。
第一回目から今日までの報告者、演題等は、花園大学ホームページの人権教育研究センターのコーナーですべて見ることができますが、差別、宗教、メディア、障害者、貧困、原発など、まさしく私たちが生きていく上で、向き合わねばならない様々な事象に関わる多様なテーマで報告されています。これらのテーマを一瞥すれば、時々の時代背景が投影した人権状況の変遷を見ることができ、人権に関する貴重な記録の一つと言ってもいいでしょう。センターが、このような取り組みを、約二五年間、四半世紀にわたってうまずたゆまず継続し、それを公刊して世に問うてきたことは、ささやかではありますが、人権にかかわる貴重な営為として自負してもよいことだと思っております。
さて、二〇一七年の一年間は、アメリカのトランプ大統領の登場に始まり、北朝鮮による度重なる弾道ミサイル発射による緊張の高まりなど、かつてない戦争の危機が深まった一年でした。そして、こうした平和への危機を考える上で、日本に五四基もの原発があることは留意すべきことです。人権週間や研究会でも原発の問題はたびたび取り上げられています。東日本大震災時の福島第一原発の事故を見るまでもなく、原発が私たち人類と共存できない危険極まりない存在であることはもはや公知の事実となっています。万々一、朝鮮半島が戦争状態になり、国内にある五四基の原発の二、三か所でも攻撃されれば、日本が壊滅状態になることは必至でしょう。こうした危険と隣り合わせにある我が国が、北朝鮮に対して、アメリカべったり、対北朝鮮への「圧力」一辺倒の外交でいいはずはありません。対話と交渉による緊張緩和こそが危機回避の道であるはずです。
幸い、今年は、国連で核兵器禁止条約が圧倒的多数の国の賛成で採択されました。長年にわたる反核、原水爆禁止の運動が結実した素晴らしい成果といってよいと思われます。
ノーベル平和賞を受賞したICAN=核兵器廃絶国際キャンペーンのベアトリス・フィン事務局長は、二〇一七年一二月一〇日ノルウェーのオスロで行われた授賞式の演説で、次のように述べています。核の脅威に侵されている私たちに対して実に的確な指摘がなされていますので、少し長くなりますが引用します。

──核兵器の物語には、終わりがあります。どのような終わりを迎えるかは、私たち次第です。核兵器の終わりか、それとも、私たちの終わりか。そのどちらかが起こります。
──私たちが核戦争を回避してこられたのは、分別ある指導力に導かれたからではなく、これ
まで運がよかったからです。私たちが行動しなければ、遅かれ早かれ、その運は尽きます。
──今日世界に存在する核兵器のごく一部が使われただけでも、火災旋風の煤煙が大気圏高く
に届き、地球の表面に十年以上にわたり冷却、暗黒と乾燥をもたらします。
それは食料作物を消し去り、何十億もの人々を飢餓の危機にさらします。
──被爆者たちは、この核兵器の物語の始まりを経験しました。私たち皆に課せられた課題は、彼らがこの物語の終わりをもその目で見ることができるようにすることです。
──今日、化学兵器を保有することを自慢する国はありません。神経剤サリンを使用すること
は極限的な状況下であれば許されると主張する国もありません。敵国に対してペストやポリオをばらまく権利を公言する国もありません。これらは、国際的な規範が作られて、人々の認識が変わったからです。そして今、ついに、私たちは核兵器に対する明確な規範を手にしました。
歴史的な前進への一歩は、普遍的な合意で始まることはありません。署名する国が一つずつ増えて、年を重ねるごとに、この新しい現実は確固たるものとなります。これこそが進むべき道です。核兵器の使用を防ぐには、ただ一つの道しかありません。核兵器を禁止し廃絶することです。(NHKニューズWEB ノーベル平和賞授賞式 ICAN事務局長 演説全文より)
私たちのささやかな日常は、平和あってのものであることは余りにも明らかです。毎日、仕事や子育て、家事を行い、家族と語らい、仲間と遊び、そして、ちょっとした幸せを感じることは当たり前のことかもしれません。私たちは、平和憲法に守られ、そのことのかけがえのなさを感じていないのかもしれません。しかし、そうした庶民の何でもない日常生活が現実に脅かされているのが昨今の状況ではないかと思うのです。それは、北朝鮮をめぐる緊張の高まりとともに、国内においては、平和憲法を変えようとする動きによっても脅かされていると考えざるを得ません。私たちは、こうした国内外の危機を乗り越えるために、さらに人権を守る活動を強めなければならないと思っています。

本書の出版に当たっても、批評社には格別の労をとっていただきました。出版事情の厳しい折に、本書出版の意義をご理解下さった編集スタッフをはじめとする関係者に対して、厚くお礼を申し上げます。また、本書出版の意義を認めて格別の助成をくださった花園大学執行部にも、深甚の謝意を表します。

 二〇一八年三月
花園大学人権教育センター所長(社会福祉学部教授) 吉永 純

目次

はしがき……………………………………………………………………………………3

釜ヶ崎から日本の貧困を考える………………………………生田武志 13
●活動をはじめたきっかけ
●全国の「釜ヶ崎化」
●ハウス(家)とホーム(居場所)
●一歩一歩の段差づくり
●さいごに

普通の弁護士がお金にならない原発裁判をやる理由……………………………鹿島啓一  45
●原発裁判に関わるきっかけ
●3・11前の原発裁判
●3・11後の裁判官、最高裁の動き
●3・11後の原発裁判
●大飯原発三・四号機運転差止請求事件
●高浜原発三・四号機運転差止仮処分命令申立事件
●高浜原発三・四号機運転差止仮処分命令申立事件の異議審
●どこかにいる人々、後の世の人々に思いを寄せる

仏教を基盤とした病者の看取りビハーラ活動と臨床宗教師研修……………………………………………鍋島直樹 80
●ビハーラ活動とは─その理念と基本方針
●臨床宗教師研修の誕生
●スピリチュアルペイン─根源的な苦しみ
●スピリチュアルケア──心のケア
●大学院実践真宗学研究科における臨床宗教師の実践理念
●2015 臨床宗教師研修で学んだ大切な物語
●阪神淡路大震災の体験──大災害をどう受けとめるか
●親鸞聖人における愛別離苦への姿勢
●生きる意味はどこに

大阪府社会貢献事業の現状と課題
──制度のはざまに寄り添う社会福祉法人によるレスキュー事業………川島ゆり子 101
●報告趣旨
●現実の地域社会
●制度のはざまで
●大阪府社会貢献事業
●社会福祉法人以外に公益性をもつ組織●(質疑応答)

つまづきの石
──曹洞宗の差別事象をふり返る………………………………………………中尾良信 130
●第三回世界宗教者平和会議差別発言
●広島家系図差別事件
●栃木県住職差別発言事件
●内山愚童の名誉回復
●梅花流詠讃歌歌詞改訂
●『差別語を考えるガイドブック』
●総持寺機関誌差別的エッセイ・漫画

マス・メディアのモラル・パニック………………………………………八木晃介 163
●モラル・パニックとは何か
●私の最初の新聞体験
●新聞記者志望の理由
●私の簡単な履歴
●沖縄返還密約暴露事件
●「知る権利」の敗北
●NHK番組改竄問題
●安倍首相の「おともだち」や「チルドレン」のメディア観
●「電波停止」発言とテレビの敗北
●「言論・表現の自由」「報道の自由」は、風前の灯火か?
●特定秘密保護法の問題点
●憲法の命運や、いかに?
●マス・メディアのイデオロギー作用
●メディア・リテラシーによるエンパワーメント
●私自身はどのように行動してきたか

子どもの育ちと障害にかかわる権利保障……………………………………山口真希 194
●教育において「みんな同じ」は本当に大切なのか
●多様性の尊重を難しくしているものは何か
●大人の期待に沿う先に何が待っているのか
●「みんな同じ」という期待をどう問い直すことができるのか
●障害の社会モデルと理解教育

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