TOP サイコ・クリティーク ACT-Kの挑戦[増補新版]─ACTがひらく精神医療・福祉の未来

ACT-Kの挑戦[増補新版]─ACTがひらく精神医療・福祉の未来

  • 高木俊介著
  • 価格 1700+税円
  • 判型:46判、200ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0669-4
  • 初版発行年月 2019年11月17日
  • 発売日 2019年11月19日

内容紹介文

はじめに

精神医療・福祉の世界ではこの10年以上にわたってACT(包括型地域生活支援)が熱い注目を集めてきました。
ACTとは、統合失調症を中心とした重い精神障害者に対して、精神医療と福祉の専門家や当事者スタッフからなる多職種チームが、24時間365日にわたって、訪問によるサービス提供を行うことで地域生活を援助する方法です。
アメリカが1970年代に脱施設化を推し進めた際に、精神障害者の浮浪者化や回転ドア現象と呼ばれる入退院の頻回化が、脱施設化という理想の陰の部分として社会問題となりました。
ACTは、そのような状況の中で精神障害者の地域生活を定着させ、脱施設化を実効性のあるものにすることをめざして誕生しました。その後30年の間に、ACTによる援助の有効性が次々と実証され、今では地域精神医療の体制や障害者福祉施策を持つ国の多くで、その中心的な機能を担うものとして取り入れられています。
ところが、他ならぬこの日本は、未だに世界に恥ずべき精神病院大国です。21世紀になって、ようやく、遅々として進まぬその実態はとにかくとしても、理念の上では「入院医療中心から地域生活中心へ」と、精神医療・福祉の進むべき方向性がはっきりと示されました。そのための現実的手段のひとつとして、ACTを日本の制度の中に取り入れたいという期待が高まってきたのです。厚生労働省が、市川市で研究的試行としてACT-Jを2002年に立ち上げたことから、この期待はさらに現実味を帯びることになりました。
その当時、私は10年間携わってきた「精神分裂病」から「統合失調症」への病名変更という仕事をやり終え、次にその病名変更の意味を現実化することができる臨床の現場をどうつくっていくべきかを考えて過ごしていました。「病名変更の意味」とは、統合失調症という精神障害は、人格が崩壊して社会生活が不可能になるような致命的な不治の病ではなく、常に現実とのかかわりの中で安定したり失調を起こしたりしている人生行路の表現であり、十分な支援があれば地域で暮らしていくことが可能な障害であるということです。
ACTについて初めて知った時、これだ! と思いました。
統合失調症を抱える人たちが地域で安心して生活を送れることを可能にするための十分な支援とは、とりもなおさずACTのような包括的支援のことです。国がやるのを座して待っていられない。ACTを民間の組織や資源を使って可能にすること。このミッションのもとに、熱意をもった多くの人たちが集まってくれました。そうして、京都のACT、つまりACT-Kが始まったのです。
本書は、このACT-Kの活動の中から生まれたものです。しかし、単なるACT-Kの活動記録ではありません。ACTという形式を取り入れるだけではなく、脱施設化というACTの理念が日本の精神医療・福祉の中で生かされなければなりません。そのためには、精神障害をめぐる私たちの考え方や見方にも、現在の精神医療・福祉の実践体制にも、大きなパラダイム転換が必要です。
現状に対するラディカルな批判と変革なしには、これまで言葉の上でだけ次々と輸入されては一時的流行として忘れられていった、あるいは閉鎖的病院や施設の闇の中に消えていった
数々の舶来の思想や治療法と同じ運命を、ACTも辿ることになるでしょう。そうさせないためにも、私は本書の中で、現体制の批判と精神障害概念の転換について、私なりの見取り図を提出しました。
前者では、「精神医療・福祉のメルトダウン」という危機的現状を浮き彫りにしてみようと試みました。精神病院のみならず、外来精神医療も地域の精神保健福祉体制も、自己融解していく徴候を現実に示しつつあります。私たちが置かれているこのような危機的状況こそが、ACTを必要とし、かつACTを生かしもするということを主張しています。
後者は、「精神疾患・障害複合(mentally ill-disability complex:MIDcomplex)」という概念の提出です。現在、精神医学の世界では、多幸的と言ってもいいような精神障害への単純で薄っぺらな見方が蔓延しています。これは人間の精神の働きやその現実社会での複雑な側面をも、脳の働きに一方的に還元してしまう生物学主義的な見方に基礎を置いています。福祉の世界でも、人間存在の危機的状況に対する援助という視点は失われ、精神機能の道具的欠損に対する補?的かかわりばかりが安手の福祉施策として実行されようとしています。このような現状を批判するための視点が、「精神疾患・障害複合」という概念です。
「精神医療・福祉のメルトダウン」という現実的下部構造に対する批判と、「精神疾患・障害複合」という概念的上部構造の転換の両者がからみあうことで、ACT本来の理念と実践を傷つけることなく、日本の精神医療・福祉の中に生かしていく道をみつけることができると思います。
本書は2008年に発行された旧版が幸いにも版を重ね、この10年の実践で得られたことと、私たちのおかれている現状を加えて、加筆改訂したのです。これによって、現在私たちの置かれている現実を知っていただきみなさんの実践い役立てていただきたいと思います。
では、ACT-Kとともに、サイコ・クリティークの旅に!

増補新版あとがき
ACT-Kの設立からまるまる13年となり、旧版の発行から10年が経とうとしています。その間、悲しいことに、精神病院を中心とするわが国の精神医療体制はほとんど変わっていません。
それにもかかわらず、私たちが作ったACT-Kは、おそらく組織というものがもつ宿命でしょう、内には少なからぬ澱がたまり、それが外からの環境変化の圧力とあいまって、組織を大きく改編せざるを得ませんでした。
この数年間、そのことで侃々諤々の議論を繰り返し、多くの時間と労力を費やし、ようやく新しい光が見え始めたところです。ちょうどそのような時に、改訂新版の提案をいただき、最初はずいぶんと戸惑いました。この変革の成果が出るのはまだ数年かかります。しかし、同じ壁にぶつかって悩んでいるだろう仲間たちに、今この時こそ私たちの経験を伝える時だと思い、ここに増補新版を上梓することにしました。
新たに入れた3つの補論もあわせて読んで頂くことで、私たちを取り巻く厳しい情勢を知り、読者の方々がそれを打破するための知恵と勇気、そしてなによりも日々の実践の糧を、この書に見いだしてもらえれば幸いです。
 2017年10月8日 

目次

はじめに………3

第1章 ACT-Kの挑戦、10年目の壁……13

1-1:笑顔をとりもどす……14
1-2:10年後のACT-KとA子さん……18
1-3:医療と福祉の連携、その困難……20
1-4:B男さんの一人暮らし修行(10年前)……22
1-5:B男さんのその後、時は流れて……26
1-6:ACT-K、10年目の壁の前で……30

第2章 ACTとは何か……35

2-1:ACTの特徴……35
2-2:ACTと従来の精神医療・福祉体制……38
2-3:精神障害者の日常生活支援……46
2-4:ACTのはじまりと世界への普及……48

第3章 地域生活支援と
「精神疾患・障害複合(MIDcomplex)」……51

3-1:「精神障害」という用語について……51
3-2:「統合失調症」という病名について……54
3-3:統合失調症とは何か;「疾患」vs「障害」……58
3-4:統合失調症は脳障害か?……66
3-5:「精神疾患・障害複合(MIDcomplex)」としての統合失調症……69
3-6:「精神疾患・障害複合」概念と「ストレス?脆弱性モデル」……72

第4章 メルトダウンする精神医療・福祉体制……79

4-1:精神病院の衰退と消滅……81
4-2:外来精神医療の混迷……89
4-3:地域保健・福祉の崩壊……96
4-4:新たな精神医療・福祉体制の構築を……101

第5章 ACT-Kの誕生と現状……103

5-1:日本におけるACTのはじまり……103
5-2:京都にACTをつくる……106
5-3:ACT-Kスタッフの活動……110
5-4:ACT-Kの利用者……115
5-5:ACT-Kの経済的基盤―「お金は後からついてくる」……117
5-6:ACTの医療経済―地域生活支援は高くつくのか?……120

第6章 地域精神医療・福祉における
支援関係の原則……127

6-1:「ストレングス」と「リカバリー」……127
6-2:超職種チームによる自由性と継続性……130
6-3:ACTチームにおける対応の柔軟性……133
6-4:訪問援助活動における利用者との関係性……135
6-5:精神障害者のニーズを汲む、ニーズを育む……136
6-6:「アウトリーチ」とは何か……141
6-7:アウトリーチという両刃の剣……144

第7章 ACT-Kの挑戦、再び……147

7-1:精神障害者医療と福祉の一体化を求めて……147
7-2:ACTの危機……152
7-3:これからの精神医療・福祉とACT-Kの再挑戦……155

補論1 ACTは脱施設化を促進できるのか?
―理念なきACT導入を危惧する……159

はじめに……159
1:治療・支援構造としてのACTの問題……161
2: 日本の精神保健医療福祉の歴史におけるACTの位置づけ
の問題……164
3: 日本の精神保健医療福祉の現状においてACT導入から生
じる問題……166
4: 医療観察法とACT……167
結論……168

補論2 白雪姫の毒リンゴ、知らぬが仏の毒みかん
― 理新オレンジプランと
認知症大収容時代の到来……171

1:精神病床は減らさなくてよい? 日精協の自信……171
2:そのオレンジ、出荷の前に毒を盛れ……174
3:暗躍する自民党医系議員と日精協、つながる輪……178
4:あなたが、ある晴れた朝、突然に……179

補論3 統合失調症の薬物療法神話から脱しよう
― 薬物療法は統合失調症の

予後を改善したのか……181
【抗精神病薬神話の終焉】……181
【精神医療の「失われた20年」】……183
【非定型抗精神病薬はほんとうに従来薬に優るのか?】……185
【巻き起こる論争】……187
【抗精神病薬治療は統合失調症の予後を改善しない?】……188
【抗精神病薬による維持療法はどこまで必要なのか?】……190

初版あとがき………197
増補新版あとがき………199

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