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「精神医療」87号 特集=多機能型精神科診療所を考える

  • 古屋龍太+高木俊介責任編集
  • 価格 1700+税円
  • 判型:B5判、144ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0665-6
  • 初版発行年月 2017年7月10日
  • 発売日 2017年7月12日

内容紹介文

巻頭言
多機能型精神科診療所を考える?地域包括ケアの未来像?
古屋龍太

1●多機能型精神科診療所の拡大
多機能型精神科診療所(以下「多機能型診療所」と略す)が増えている。多機能型診療所とは、外来診療に止まらず、精神科デイケア(以下DC)、デイナイトケア(以下DNC)や訪問看護ステーション、アウトリーチサービス、障害福祉サービス事業所を立ち上げての計画相談支援や就労支援、グループホーム、更には在宅介護支援事業所などを、同一法人で運営する地域拠点型クリニックを指す。
その多くは、精神科病院を中心とした病院精神医療を離れ、地域精神医療を志向する精神科医たちによって立ち上げられ、地域ケアの必要性に迫られてデイケアや訪問看護などの諸機能を徐々に追加してきたものである。スタッフも多職種で多様となり、地域に分散する形でネットワークを組み、医療提供に止まらない多機能のケアサービスを提供している。自然発生的に発展したこの多機能型診療所が、地域によっては精神医療・福祉ネットワークの中核的存在になりつつある。
一方で、2015年7月以降に報道されたEクリニック問題は、チェーン展開を図る診療所が大規模なDNCを母体とした貧困ビジネスを展開し、自由に意思を表明できない、行き場のない生活保護受給患者層を囲い込む地域内収容施設化の実態を明らかにした。
新たな貧困ビジネスの闇の舞台としてDNCがマスコミで取り上げられ、生活保護の適正化や自立支援医療の見直し、DNCの治療内実を問う診療報酬の減算化等に波及していった。
多機能型診療所の拡大は、地域における多様な自己選択肢の拡充を目指しており、Eクリニックと同様の患者囲い込みを追求している訳では決してない。しかし、これまで地域で支援を展開してきた障害福祉関係者からは「地域の病院化」を危惧する声もある。
診療所の多角経営化により、生活モデルを基調とした福祉従事者らの取り組みとの連携が進まず、医師を頂点とした医学モデルの垂直統合型地域包括ケア体制になるのではとの違和感も表明されている。
特集に当たり、本号の企画担当者として、原稿を寄せて頂いた諸氏の論考を紹介しながら、多機能型診療所を考える論点を要約して示しておく(以下、敬称略)。

2●地域精神医療改革としての精神科診療所
高木俊介は、巻頭総論でこの国の精神科診療所の歴史を振り返りながら、現在の多機能型診療所が提唱される背景を読み解いている。精神科診療所は、かつて隔離収容政策による精神病院拡大に対抗する医療改革運動として、開設され展開されてきた。診療所が新たな転機を迎えている現在、精神障害者に対する差別偏見、生活破壊に精神医療が果たしてきた負の側面を考えると、いかに精神障害者の支援の中で医療がもつ力を小さくしていくか、医療が引いていくかに心砕くべきと論じる。その一点において、高木は多機能型診療所に夢を託す人々と道を分かつと述べ、あえて多機能型診療所の可否を論じず、医療分野以外からの意見・視点を大事にすべきと提起している。
福田祐典は、精神保健医療福祉施策の近年の動向を踏まえて、マクロな精神科医療政策との関わりから「多機能垂直統合型精神科医療機関」を提起している。垂直統合とは同一法人による運営を意味し、支援哲学の共有、支援技術の標準化、患者情報の共有化、職員の適正配置などの観点から、合理的かつ効率的であり経営の安定化にも寄与するとしている。欧米諸国同様に、地域に責任を持つ保健医療を核とした多機能垂直地域精神保健モデルを日本にも導入すべきとして、ニュー・パラダイムの実現のためのロードマップを提起している。
窪田彰は、多機能型診療所の条件として、必須項目6点と推奨項目10点を挙げている。
窪田はイタリアはじめ諸外国の例も引きながら、将来の地域ケアシステム像として、多機能型診療所が「地域精神保健センター(仮称)」を市町村から事業受託し、地域ケアの予算を得て、キャッチメントエリアに対する責任と役割を持った多様な地域活動の展開を展望している。厚労省の「これからの精神保健医療福祉のあり方に関する検討会」報告書には、措置入院解除後の支援について地域の医療機関への委託の検討が示唆されており、多機能型診療所への事業委託により、本格的な包括的精神科地域ケアの到来が期待されると述べている。

3●多機能型診療所の理念と実践
大嶋正浩は、乳幼児支援から思春期、自立までを目指した活動を展開してきた経験を踏まえて、多機能型診療所の機能を検討している。地域で散開して活動する多職種スタッフが「どこまでも利用者と付き合っていく」という組織理念を共有しているという。
医療が福祉を行うと「囲い込み」と断じられることが多いが、地域を変えようとする健全な多機能型にこの批判は当たらないとする。地域全体の利益のために働く覚悟を持つことで、おのずと深いレベルのネットワークが構築されると述べ、当事者の希望や支えとなる環境設定やシステムづくりこそが、多機能型診療所の機能であり方向ではないかと問う。
半田文穂は、精神科病院と袂を分かち「入院せずに地域で」という法人理念を掲げ地方小都市で診療所を開院して以降の経過を振り返り、事例を示しながら、法人内を中心とした地域包括支援体制を検討している。「多機能型」が意味するものは、さまざまな複数の機能をもって治療し支援する場の手段を表現しているが、あくまでも全人的立場に立つ包括的支援の場を提供すべきと述べ、本来目指すべきあり方は多機能型診療所というより、「地域包括支援型診療所」であると提唱している。
木村尚美は、看護師として欧米の包括ケアマネジメントを意識して取り組んできた活動を概括している。理念として、?今までの精神科の常識とされてきたことを考え直す、?当事者の主体性を育てる、?仲間の力を信じる、の三点を揚げ、心理教育・家族教室を積極的に展開し、DC、訪問看護ステーション、多機能型事業所、就労支援事業所、相談支援事業所等を立ち上げ、地域生活支援部を構成している。さらにDC終了者と株式会社を立ち上げ、医療・福祉事業を展開し、多くの社員が当事者の専門特性を生かしてピアサポーターとして働いている。当事者・家族との協働を目指してきた木村は、多機能型診療所の定義にピアサポートを位置づけることを提案している。

4●多機能型診療所への違和感と危惧
金杉和夫は、多機能型診療所が語られるようになった経過を示しながら、精神疾患に対する医療と障害に対する福祉は一体になって医療が主導して行うべきだと考える医療関係者への違和感を述べている。医療は地域の福祉的なケアを主導したり、経営したりすることには禁欲的であるべきであり、同一法人内で共通の支援哲学と手法で上から下へ統制していく垂直統合型は、医療福祉一体論の極端な形であるとする。これまでの精神科病院と同様に地域の福祉的な社会資源を支配下に置くのではなく、診療所が地域の事業所と対等に連携し、利用者の主体的選択を生かした「水平連携型」の地域ケアを広げ深めていくべきであるとしている。
門屋充郎は、長年にわたり精神科病院の脱施設化を推し進め、地域生活支援を展開してきた経験から、精神保健医療福祉従事者には内なる偏見とパターナリズムが根深く存在し続けていることに注意を喚起している。ストレングス型ケアマネジメントを制度の中心に据えた障害者総合支援法によって、本人中心支援を基本としてフォーマル・インフォーマル資源の複数サービスを本人へ統合する「連携」強化による支援が構築されてきている。精神科医療は医学モデルだけの論理で多機能化する前に、社会モデルの示す「連携」により構築される生活を精神障害者支援の基本に据え、本人が主体的に利用できるあり方の検討を求めている。
?島眞澄は、障害者総合(自立)支援法施行10年の実態を踏まえて、福祉・医療関係者は障害児・者を「食い物」にしていないか? と厳しく問う。精神科診療所の障害福祉サービスへの参入は、地域福祉の充実につながるように見えつつも、地域の生活に医療的管理が広がるのではないかと危惧している。精神科診療所が障害者福祉サービス事業に参入することにより、障害者福祉事業という「パイ」の分配に「医療」が加わり、地域の中で「障害者の取り合い」が露骨になってきているという。むしろ社会的な権威をもつ医師が、地道に地域福祉の活動を展開する福祉事業所の存続を危うくする存在になり兼ねないと警告する。
一方で、西隈亜紀は、「診療所は?地域″か?」という問いを発した上で、「地域か病院か」ということよりも「医療か福祉か」という点を丁寧に考えてみるべきと述べる。個々の方への支援を「地域VS病院」の二元論では語れないように、「医療VS福祉」も語れない。多機能型診療所が増えつつあるのは当然の流れであり、多機能型診療所に対する漠然とした不安は「地域か病院か」と「医療か福祉か」の議論が混在していることから惹き起こされていると指摘する。むしろグループホーム世話人からの切実な願いとして、診療所も24時間365日オンコール医療体制を構築することを求めている。

5●「医療対福祉」構図の崩壊
本特集に寄稿して頂いた10人の論者らの意見を編者なりに要約させて頂いた。それぞれの主張は大きく異なっており、多機能型診療所に対する評価の現状を反映している。
内実が問われて来るのはこれからなのであろう。
ここまで、主として「医療対福祉」という構図を意識しながら記してきた。しかし、障害者総合支援法の下で急速に競争原理に基づく市場化が進む障害福祉サービスの中で、とりわけ就労移行支援・就労継続支援A型への株式会社の参入により、医療対福祉という二元論の構図は既に崩れつつある。大規模なチェーン展開力を持つ民間企業の参入により、特に大都市部では過当競争化が進行する中で資本とマネジメント力の強さが、地域の支援サービス寡占化を生みかねない状況となってきている。既存の医療法人も社会福祉法人やNPO法人も、今後は経営上の苦戦を強いられることは想像に難くない。保健・医療・福祉・介護分野での新自由主義政策の流れは止まらず、「我が事・丸ごと」囲い込む企業による地域包括ケア体制構築の経営戦略が進行していくこととなろう。
本来、診療所における外来治療は自由な契約関係であり、治療は同意の下で行われ、治療や支援の名の下での生活管理は許されない。多機能型診療所の掲げる理念に照らして、臨床実践がパターナリズムに陥っていないか、日常業務の点検と見直しが必要である。国を挙げて地域包括ケアシステム化が進行する中で、多機能型診療所は、果たしてこの国の精神科地域ケアを抜本的に変える起爆剤となり得るのか。医療と福祉の価値の相克・葛藤は乗り越えられるのか。各地の実践を踏まえた提起から、地域精神医療/地域包括ケアの未来像を読者とともに考えることとしたい。

目次

【目次】
多機能型精神科診療所を考える
―地域包括ケアの未来像

巻頭言?多機能型精神科診療所を考える
―地域包括ケアの未来像…………………………………………………………… 古屋龍太?003

総論?多機能型精神科診療所? その恍惚と不安
―わが国における精神科診療所運動の軌跡から………………………………… 高木俊介?010

多機能垂直統合を精神科医療政策との関わりから考える……………………… 福田祐典?018

多機能型精神科診療所の発展から地域精神保健センターへ…………………… 窪田 彰?028

多機能型精神科診療所の機能を考える
―乳幼児支援から自立までを目指した活動……………………………………… 大嶋正浩?037

ある多機能型精神科診療所から見えてきたもの………………………………… 半田文穂?044

精神障がい者の地域生活を支える多機能型診療所
―誰でも地域生活は可能だ! 看護師の経験より……………………………… 木村尚美?054

医療は地域と福祉を支配するな
―垂直統合ではなく水平連携しよう… ………………………………………… 金杉和夫?065

診療所も24時間オンコール医療体制を
―グループホーム世話人からの切実な願い……………………………………… 西隈亜紀?073

福祉・医療関係者は障害児・者を「食い物」にしていないか?
―障害者総合(自立)支援法施行10年の実態を問う… ………………………… ?島眞澄?081

精神医療の多機能化に思うことあり
―多機能化は精神医療の質を低下させないのか………………………………… 門屋充郎?089

コラム+連載+書評
視点―48?医療法施行規則第10条改正と精神障がい者に対する医療制度における差別……………………………………………………………………………………………… 佐竹直子?099

連載?異域の花咲くほとりに―3
うつ病について(1)……………………………………………………………… 菊池 孝?104

短期連載?―3
国家の意志と精神保健福祉士のポジション
―メンタルヘルス戦略システムの調整装置としてのPSW ………………… 古屋龍太?115

コラム? 精神保健福祉の世界にとび込んで…………………………………… 小川武美?124

書評?『訴訟能力を争う刑事弁護』
訴訟能力研究会編[現代人文社刊]… ………………………………………… 山田恵太?128

紹介?『日常診療における精神療法―10分間で何ができるか』
中村敬編[ 星和書店刊]………………………………………………………… 塚本千秋?133

書評?『相模原障害者殺傷事件―優生思想とヘイトクライム』
立岩真也・杉田俊介著[青土社刊]… …………………………………………… 臼井正樹?135

紹介?『精神病院はいらない!―イタリア・バザーリア改革を達成させた愛弟子3人の証言』
大熊一夫編著[ 現代書館刊]…………………………………………………… 中越章乃?140

投稿? 相模原事件についておもうこと二つ三つ……………………………… 岡田靖雄?141

編集後記…………………………………………………………………………… 高木俊介?144

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