TOP メンタルヘルス・ライブラリー 地域包括ケアから社会変革への道程[実践編]─ソーシャルワーカーによるソーシャルアクションの実践形態

地域包括ケアから社会変革への道程[実践編]─ソーシャルワーカーによるソーシャルアクションの実践形態

  • 中島康晴著
  • 価格 1800+税円
  • 判型:A5判、208ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0664-9
  • 初版発行年月 2017年6月25日
  • 発売日 2017年6月27日

内容紹介文

さあ、はじめよう!
社会福祉の世界から<革命>を 2

地域包括ケアシステムとは、高齢者の方が重度な要介護状態となっても、住み慣れた 地域で自分らしく、人生の最期までずっと暮らせるよう、医療・介護・予防・住まい・生活 支援の5つのサービスが一体的に切れ目なく提供される仕組です。
ソーシャルワーカーはこの仕組みに現場で関わるわけですが、広島市で10箇所の施設を運営する「地域の絆」の活動をとおして見えてきたものは、従来のソーシャルワークの仕事の範疇を超えて、新自由主義の下で虐げられてきた人びととの交流をとおして地域社会そのものを変革して、さらに社会変革まで射程に入れた改革を目指した新たな社会運動としての社会福祉の理念でした。その理論と実践をあますことなく明らかにしたのが本書です。

はじめに

別本『理論編』においては、ソーシャルワークの視座から新自由主義批判を展開した。加えて、ソーシャルワークにおける社会変革の重要性を確認し、地域包括ケアが地域包摂・地域変革へと繫がる道程について描いてきた。実践家による理論の披瀝であったため、書を読み漁りながら、自らの経験と照らし合わせ、考察を重ね幾分か苦労を伴って何とか書き上げることができた。では、本書『実践編』では、その苦労はなかったのか、と問われれば、実は全く質の異なる難事が浮上してくる。
理論編の執筆は不慣れなことによる困難であったが、実践編のそれは、自らの実践と向き合うことの難しさにあった。自らが運営する組織の実践と、自らの実践について、過去の実践報告会・学会での抄録や論文を読み返す。傑出した実践の後に、その実践をただ繰り返すことに終始したものから、独創的な実践を止めどなく進展させていった実践など、振り返るたびに一喜一憂がある。しかし、高まっていくのは、むしろ、憂慮の方だった。
回顧すればするほどに、もっとこうしておけばよかったという後悔が増していく。本書で表した実践以外にも、「人びと」に対して不十分な実践ばかりが思い起こされる。自らの実践を描くということは、この様な慙ざん愧きの念と向き合うことを意味する。
特に、「六章 社会変革を促進する組織運営論」では、組織の代表者としてのジレンマの披瀝を試みた。本書の主旨からそれることを恐れて、十分な吐露にまでは至らなかったが、ここでは、現在の心境を質実に表明している。社会的企業家として今日成すべきことと、ソーシャルワーカーに求はじめに4められる本質的な使命との離反。そのジレンマと対峙し、意見を表明することの難しさ。組織運営においては、組織の発達段階と社会環境に応じて、その都度かじ取りが求められる。組織としての優先順位がある一方で、「人びと」と職員にとってもそれぞれ異なる優先順位が当然に存在する。もちろん、「人びと」にとってのそれが最優先であることは誰もが分かっているが、日々の実践においては、そうはできない現実に直面することもある。その都度微妙な判断を迫られるが、上手く行った事例ばかりでは当然にない。
理論編で批判を重ねた新自由主義ではあるが、その構造に乗って、サービス供給主体の多元化があったればこそ、「地域の絆」が、いま、「人びと」への支援の展開が許されているのも事実である。この矛盾に対する問いにどの様に応えるべきか。この問いは、仮に素晴らしい実践が展開できていれば、免罪されるといった表層的なものではない。
この様に、ソーシャルワーカーは、「人びと」の価値や、組織としての価値、家族による価値、地域住民らの価値、社会の優位的な価値規範、ソーシャルワーカーの個人的な価値、ソーシャルワーカーとしての価値といった様々な価値にさらされながらそのジレンマにおかれている。ソーシャルワーカーが、このジレンマを認識して、これと対峙しようとすることは、地域変革・社会変革の実践を展開するために不可欠な営みであるし、このことを通じてこそソーシャルワークの進展があると私は考えている。なぜならば、多様な価値を認めるところから、いつも、ソーシャルワークの実践は始まるからだ。
理論編では、自らの実践を棚に上げてでも、批判を展開することが許された。しかし、この実践編では、自らの実践そのものを俎上に載せ、そこから逃れることのできない状況下で考えを表明しなければならない。どちらも責任は重たいのだが、やはり、自らの実践領域であればこそ、後者の方がよりその責任を強く感じてしまう。このことは、「自己言及」することの重要性を私たちに示唆してくれている。また、ここに、理論と実践、双方への着眼が不可欠であるという理由も見て取れるだろう。研究者も実践はじめに 5家も、その双方を視野に収めることで、他者に対する言及のみならず、自らに対する言及が避けられなくなるからだ。
ソーシャルワーカーは、ソーシャルワークの価値に軸足を置きつつも、多様な価値を認めるからこそ、そして、専門職として自己言及・省察を繰り返すことによっていつもジレンマの中にある。しかし、これらはソーシャルワークの展開に必要な経験であり、ジレンマに陥らない、つまり、これらの過程を踏まないソーシャルワークは、逆に脆弱であり、ある種の危うさをはらんでいる。現実を捉えられない実践に、社会変革は期待できないし、『理論編』で述べた様に、却って、排除する側への加担を果たしてしまう恐れもある。また、その実践が独善化・孤立化の様相を帯びてしまう危険にも連なるだろう。
社会から度外視され、排除されてきた人びとの側に立つ。「常識」や「普通」と対峙する。これらを伸展していくのは、決して簡単なことではない。
時として、私たちが、屈辱や妥協を経験することは避けられない現実である。傍観者からみれば、有言実行とは程遠く、また、実に歯がゆく感じられるかもしれない。非実践家は、傍から見て、そんな私たちの実践を嘲あざわら笑うかも知れない。しかし、私たちの志向する実践は、そんなに単純なものではない。"力の弱い"人たちの代弁を担うのだから、正直、上手くいかないことの方が多いのが当たり前だ。私たちの社会変革は、端的に言えば、10あるこちら側の主張の内、9を諦めてでも、確実に1を通していく闘いである。いや、100の内1を貫く闘いなのかも知れない。それでも、確実に1は変革することができる。何ら戦略も持たずに打って出て、結局は何も変えられない実践家も多く見受けられるが、確実に1を変えていける展開こそが真の社会変革に連なると私は信じている。そこには、非実践家からは、決してとらえることのできない、巧妙で戦略的な調整と駆け引きが常に存在している。
確かに、思い切って、ジレンマから解放されて、また、あらゆる価値や自己言及に捕らわれない実践を展開すれば、周囲からも分かりやすく、支持を得ることができるのかもしれない。しかし、ソーシャルワーカーが、その価値を諦観して、多様な価値への配慮もせずに、自己に言及する作業も止めてしまったら、ソーシャルワークの社会変革は今まで以上に停滞してしまうだろう。そうではない本当のソーシャルワーカーは、常にジレンマの中にあり、むしろ、外部からその功績が見えにくい所におかれている。
そんな時、大切になってくる考え方がある。それは、自己に対する評価軸を自らが持つということ、そして、自分を信じるということだ。それは、上記の独善化と孤立化したソーシャルワークを志向しているのではない。
ソーシャルワーカーとしての価値と、「人びと」の側から社会を捉えるという信念を厳格に抱いた上で、自らの実践が現在そのどの部分に貢献しているのか、そして、それを将来のどこに繫げようとしているのかを自らが確認するためのものだ。その確認ができなければ反省すべきだし、一部また、多くの部分で貢献していることの自覚があれば自らを褒めてやればいい。
社会変革という実践は、ソーシャルワーカーがジレンマにおかれている分、一朝一夕には展開できないし、であればこそ、その成果も見えづらい。
かといって、実践を独善化したり、"反対の勢力"へ迎合することは、もっとも忌避するべきことであろう。そうならないためにも、自らを信じる力をソーシャルワーカーは持たなければならない。そこでは、他者に信頼されることを求めるのではなく、自らが信頼できる自分であり続けることを追求することが要請されている。本書をしたためながら、改めて気づかせてもらった陽報である。

【略歴】
中島康晴(なかしま・やすはる)
1973年10月6日生まれ。花園大学では、八木晃介先生(文学部教授)の下、社会学を中心に社会福祉学を学ぶ。
巷で言われる「常識」「普通」に対しては、いつも猜疑心を持っている。1億2千万人の客観性などあり得ない事実を鑑みると、「普通」や「常識」は誰にとってのそれであるのか、常に思いを巡らせておく必要性を感じる。いわゆる排除される側から常に社会を捉え、社会の変化を促すことが、実は誰もが自分らしく安心して暮らせる社会の構築に繋がると信じている。
主な職歴は、デイサービスセンター生活相談員、老人保健施設介護職リーダー、デイサービス・グループホーム管理者。社会福祉専門職がまちづくりに関与していく実践の必要性を感じ、2006年2月20日、特定非営利活動法人地域の絆を設立。学生時代に参加した市民運動「市民の絆」の名前を端緒として命名。代表理事。
資格/その他の活動 ■社会福祉士/■介護福祉士/■精神保健福祉士/■介護支援専門員役職 ■公益社団法人広島県社会福祉士会会長(2011年度? 2014 年度) /■公益社団法人広島県社会福祉士会相談役(2015年度? ) /■公益社団法人日本社会福祉士会理事(2015年度? )■広島県認知症コーディネーター/■福山平成大学非常勤講師(『社会福祉援助技術』:2007年度? 2013年度) /■東北大学大学院教育学研究科博士課程在学中(2014 年度? )
著書として、『地域包括ケアの理論と実践─社会資源活用術』 (介護福祉経営士実行力シリーズ、2014 年6月刊、日本医療企画)。
E-mail:nakasima@npokizuna.or.jp

目次

はじめに
―――――――――――――――――――――――――――――――3
凡例
――――――――――――7
第四章
実践の素地を整える
―「地域の絆」の理念と概要
―――――――――――――――――――――――――――――――12
●「地域の絆」の理念 12
●個別支援と地域支援の結合
 ?ケアとまちづくりの分断を乗り越える 19
●「有事」のための平時の連携
 ?日常的で継続的なコミュニケーションの堆積 22
●大切にしている地域連携の方法
 ?地域活動における過程・即応・改変の重要性 30
●ストレングスモデルの展開
 ?個別性と多様性の尊重された社会構築への端緒 43
●余所者の強みを生かす
 ?「地域の強みを浮き彫りにする力」と「既存の関係に縛られない自由な活動」 72

第五章
地域包括ケアから社会変革への道筋
―「人びと」の「出逢い直し」を求めて
―――――――――――――――――――――――――――――――83
●地域における正負の側面
 ?地域住民が主体的に信頼性と互酬性を育むことを促進する 83
●「状況に埋め込まれた学習」論から学ぶ地域包摂の方法 88
●実践の価値と社会構造を捨象した状況的学習
 ?状況的学習を社会変革へ連ねる 97
●人間の困難を地域に「ひらく」ことで生まれた相互支援の関係
 ?「支援困難事例」が地域を変革する 106
●地域のストレングスと個別支援の相乗作用を促進する
 ?「人びと」と地域住民の「出逢い直し」 119
●「排除の関係」から「支援の関係」への道程
 ?似非専門職からの脱却を志向した実践 130
●地域包摂・地域変革を促進するソーシャルワーカーの拠り所 141

第六章
社会変革を促進する組織運営論
―――――――――――――――――――――――――――――――146
●「実践共同体」の目的および共通理解 146
●社会的企業としての運営方針
 ?「社会性」と「事業性」の均衡をはかる 159
●状況的学習論における「アクセス」「透明性」と「分業」の問題 168
●社会変革を促進する組織運営の課題
 ?代表者の苦悩とジレンマ 172

第七章
地域包括ケアが社会を変える
―地域変革から社会変革へ
―――――――――――――――――――――――――――――――177
●人間の尊厳を保障するための拠り所 177
●リスクを取らないソーシャルワークはソーシャルワークたり得ない 185
●地域変革から社会変革へ
 ?「状況的学習」から「社会学習」へ 187
●ソーシャルワーカーとしての社会福祉士への期待 194
●平和運動の旗手としてのソーシャルワーク
 ?ソーシャルワークは人間の希望になり得るか 198
あとがき
―――――――――――――――――――――――――――――――201

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