TOP 経済思想を読む 21世紀資本主義世界のフロンティア─経済・環境・文化・言語による重層的分析

21世紀資本主義世界のフロンティア─経済・環境・文化・言語による重層的分析

  • 五味久壽・元木靖・苑志佳・北原克宣編
  • 価格 3500+税円
  • 判型:A5判、272ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0660-1
  • 初版発行年月 2017年4月10日
  • 発売日 2017年4月10日

内容紹介文

インターネットの普及にともない、かつてない情報伝達のスピードで世界が?がっている。また技術のコモディティ化が浸透し、世界のあらゆる人びとが同じ工業製品を手にしている。こうしたチャネルを通じて、多様化した文化、価値観が世界を瞬く間に統合しようとするトレンドも強烈なものに感じられる。
一方で21世紀に入り、世界経済の基軸がアメリカから中国と移行しつつある。しかし、中国は西欧諸国とは政治経済システムが大きく異なり、また、漢字使用や儒教思想など文化的にも隔たりがあり、その独自性を保っている。グローバル経済の新たな拠点が中国へ誕生したことは、経済的な面にとどまらず、文化的にも世界に新たな潮流が生み出されたことを意味している。
グローバリズムとローカリズムが混在する現代の資本主義世界を理解するためには、重層的かつ多角的な分析が必要である。本書は専門分野の垣根を越え、「21世紀」「資本主義」「中国」「新興国」「環境」「言語・文化」というキーワードを横糸として、学際的視点で「転換期の世界」を観察・研究しようと試みたものである。

【はしがき】
人類は21世紀に入ってから、20年の節目を迎えようとしている。過去の20世紀において、人類は数多くの未曽有の経験をしてきた。それは、人類による大規模な相互殺戮(2回の世界大戦)、イデオロギーの優越をめぐる死闘(半世紀にわたる冷戦体制)、地球の存亡を脅かす深刻な環境破壊などに象徴される出来事である。そして、20世紀は、「アメリカの世紀」だとよく言われる。確かに、アメリカは、20世紀体制のバックボーン―資本主義市場経済体制、民主主義政治体制、自由競争の商品社会、ドル本位制、大量生産・大量消費システム、イノベーション創生の環境条件など―を用意し主導してきた。新しい世紀に入ってから様々な変化が現れたにもかかわらず、上記のような20世紀的な観念に囚われ続けている人は少なくないであろう。これには、むろん理由がある。世界政治という側面から見れば、アメリカは依然として世界の安定を保つ盟主に見える。また、世界経済という側面においても、少数の先進国が世界経済の規則・ルールを規定するという固定観念は強く存在している。米ドルは依然として世界の基軸通貨の地位を保っている。また、言語・文化の側面では、欧米や日本のライフスタイルおよびそこから派生してきたサブカルチャーが依然として世界文化のメインストリームとなっている。したがって、英語を中心とする欧米の言語が、世界の共通語だと認識されている。思想、価値観の面では、個人主義・民主主義・自由競争を標榜する資本主義的な考え方は未だ支配的なものであろう。
しかしながら、進行中の21世紀の残りの80年間において上記の諸現象はどのように変化していくのであろうか。この大雑把な疑問に確実に答えるのは時期尚早である。しかし、少なくとも、我々が過ごした21世紀の10数年間に現れた世界の様々な動きは、上記の疑問への回答にヒントを与えてくれる。まず、21世紀がアメリカ一極支配のものではないという点は疑いない。21世紀初頭に発生した世界金融危機とこれに対処しようとして形成された枠組みのG20は、20世紀体制の再編を予告したシンボリックな出来事であろう。つまり、アメリカ単独では、このような世界的規模で生じる予期せぬ出来事に対処できなくなったのである。さらに、最近の20年間では、20世紀体制を動揺させるショッキングな動きがいくつか現れた。イギリスのEU離脱とEU崩壊の危機、欧州を席巻する難民問題と多発テロ、世界的規模での環境破壊、中国を中心とする新興国経済の台頭、などの現象である。なかでも、21世紀体制の変質を示す最大の動きは、2016年に行われたアメリカ大統領選挙であろう。「新モンロー主義」を声高に唱えるトランプ氏の当選は、まさに「アメリカの世紀」に幕を閉じることを意味することだとわれわれは考えている。一方、21世紀の主役を担うのはだれであろうか。どのような国・地域であろうか。現時点では、これは必ずしも明らかではないが、いくつかの候補が挙げられる。それは、大きな人口規模、豊富な資源および大きな発展潜在力を持つ国・地域―中国、インド、ASEANなどのアジアとラテンアメリカなど―の名が浮かび上がる。
一方、21世紀に入ってから、インターネットの普及に象徴される情報の伝達はかつてないスピードで世界を繋ごうとしている。この情報技術(IT)チャネルを通じて多様化した文化、価値観が世界を瞬く間に統合しようとするトレンドも強烈なものに
感じられる。それだけでなく、人々の行動様式、ライフスタイル、宗教・思想・信条に至るまで、この新しい変化から様々な影響を受けている。このように混迷する21世紀の世界を一体どうみるべきか。本書は、この共通の問題意識を持つわれわれが自らの拠って立つ視点から現状を認識し、未来を眺望した共同研究の成果である。
本書の執筆メンバーは、同じ大学に所属する同僚であるが、同じ職場に所属しているとはいえ専攻分野は多岐にわたっており、本来であれば、一冊の共同作品を執筆するのは不可能に近いといっても過言ではない。しかし、われわれは、いくつかのキーワード―「21世紀」「資本主義」「中国」「新興国」「環境」「言語・文化」―において共通の関心を持っている。本書は、この共通のキーワードを横糸として、専門分野の垣根を越えて学際的視点から「転換期の世界」を観察・研究しようと試みたものである。言い換えれば、現代資本主義世界を多角的に分析したものということである。
本書のタイトルに「フロンティア」と入れたのも、現代資本主義分析の最前線を示すとともに、従来にはない未開拓領域(とりわけ、環境・文化・言語の視点を取り入れた分析)に踏み込んだものであることを表現したかったからである。
この試みが成功しているかどうかは、読者の判断にお任せするほかないが、本書の各章を執筆したメンバーは、それぞれの研究分野での最先端で活躍する研究者である。
各章の内容は、各分野のフロンティアにあたるものであると自負している。
2017年春 執筆者を代表して  苑 志佳

【編者略歴】
五味久壽(ごみ・ひさとし)
立正大学名誉教授、博士(経済学)
1973年 東京大学大学院経済学研究科博士課程 単位修得満期退学
1973年 立正大学経済学部講師、助教授、教授を経て、2015年3月定年退職
主要業績
『グローバルキャピタリズムとアジア資本主義』(批評社、1999年)
『中国巨大資本主義の登場と世界資本主義』(批評社、2005年)
『岩田弘遺稿集』(編著)(批評社、2015年)

元木 靖(もとき・やすし)
埼玉大学名誉教授/立正大学名誉教授、博士(理学)
1974 年 東北大学大学院理学研究科博士課程(地理学専攻) 単位取得満期退学
1974 年 日本学術振興会奨励研究員。埼玉大学講師、助教授、教授を経て、2007年立正大学経
済学部教授、2014 年3月定年退職
主要業績
『現代日本の水田開発―開発地理学的手法の展開―』(古今書院、1997年)
『関東I・II―地図で読む百年―』(寺阪昭信・平岡昭利と共編著)(古今書院、2003年)
『食の環境変化―日本社会の農業的課題―』(古今書院、2006年)
『中国変容論―食の基盤と環境―』(海青社、2013年)
『クリと日本文明』(海青社、2015年)

苑 志佳(えん・しか)
立正大学経済学部教授、博士(経済学)
1998年 東京大学大学院経済学研究科応用経済学専攻博士課程 修了
1998年 立正大学経済学部助教授、2003年より現職
主要業績
『現代中国企業変革の担い手―多様化する企業制度とその焦点―』(批評社、2009年)
『中国企業対外直接投資のフロンティア―「後発国型多国籍企業」の対アジア進出と展開―』(創
成社、2014 年)

北原克宣(きたはら・かつのぶ)
立正大学経済学部教授、博士(農学)
1995年 北海道大学大学院農学研究科農業経済学専攻博士課程 修了
1995年 秋田県立農業短期大学(のち秋田県立大学短期大学部に名称変更)講師、助教授、准教
授を経て、2004 年より立正大学准教授、2010年より現職
主要業績
『多国籍アグリビジネスと農業・食料支配』(安藤光義と共編著)(明石書店、2016年)
「『制度としての農協』の終焉と転換」(小林国之編著『北海道から農協改革を問う』筑波書房、2017
年)所収

目次

はしがき(苑 志佳)

総論──現代世界の基本問題
アジア・中国の世紀における中国巨大資本主義(五味久壽)

環境と経済の間――21世紀の文明史的課題(元木靖)

現代資本主義の転換と経済学の課題
第1章 資本主義論の諸問題(中村宗之)

第2章 情報技術革命の現局面と人類史的意味――情報データ分析による自動化・ロボット化の進行過程(田中裕之)

第3章 マルクス経済学の現代的課題(北原克宣)

新興国経済の台頭──中国とブラジル
第4章 中国資本主義に関する論考─―「複合型資本主義」の様相(苑志佳)

第5章 人民元の為替相場制度の変遷(潘 福平・林 康史)

第6章 経済グローバル化時代における発展途上国の産業発展と政府の役割――ブラジル自動車産業の事例を基に(芹田浩司)

現代社会の変容──環境倫理・メディア言語・漢字文化
第7章 儒教における環境倫理思想――人間と動植物の同質性および仁の限界をめぐって(田中有紀)

第8章 新聞メディアの社会言語学的アプローチ――批判的ディスコース分析(CDA) の一考察(ホーマン由佳)

第9章 情報処理をめぐる漢字の現状と未来(森山秀二)

あとがき(北原克宣)

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