TOP 花園大学人権論集 孤立社会からの脱出─始めの一歩を踏み出すために[花園大学人権論集]

孤立社会からの脱出─始めの一歩を踏み出すために[花園大学人権論集]

  • 花園大学人権教育研究センター編
  • 価格 1800+税円
  • 判型:46判、232ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0659-5
  • 初版発行年月 2017年3月20日
  • 発売日 2017年3月22日

内容紹介文

社会を構成する集団のあり方が大きく変化してきた。最新の統計では、単身世帯の割合が三分の一を越え、男性の生涯未婚率も25%を越えた。多くの人びとは一人で暮らし、隣人がどんな人かも知らずに過ごしている。それにもかかわらず、物質的な豊さとインターネット技術の発達によるSNS等の新しいコミュニケーションツールの普及によって、不満や孤独を感じていない。
しかし、災害時や急病のような危機に陥ったとき、手を差し伸べられるのは画面の向こうにある友人ではなく、名前も知らない隣人である。身近に居る人々が助けあう「共助」は互助関係において、もっとも重要な段階であるが、今、そうした世間が失われつつある。
個々人が孤立した社会から共助が当たり前の社会を取り戻すためには、始めの一歩を各人が踏み出さなければならない。そのためには何を知り、どのような声を挙げるべきか。防災士や障害者による、共助の実践者たちの発言集。


はしがき
 この「はしがき」では、時期的なこともあって、しばしば今年の漢字を取り上げています。二〇一六年に選ばれたのは、三度目になる「金」でした。三回ともがオリンピックが開催された年であることを見れば、金メダルからの連想であることは間違いないと思いますし、その先には二〇二〇年の東京オリンピックが意識されていることも間違いないでしょう。
 しかしながらその東京オリンピックを巡っては、桝添知事辞任の後を受けて誕生した小池百合子新知事が、すでに決定していたはずの競技会場の建設費などについて、あまりにも費用がかかりすぎることを見直すとして、ある意味では物議をかもしているのは御存じの通りです。そしてまた、東京の築地市場が移転する予定の豊洲新市場において、公開された情報にはない地下空間の存在が判明しました。小池知事の判断や政治手法が妥当かどうかは別として、この国ではいったんことが決まると、あとは政治家や役人任せとなり、結果的には当初の計画を遙かに上回る費用が投入されていたということが、さまざまな場所で行われています。
 それとは別に、号泣会見で話題となった元兵庫県議会議員の、政務活動費不正使用が話題となってからも、同じような地方議会議員の不正が次々と明らかになっています。ごく当たり前な感覚の持ち主なら、自分が少しでも不正を働いていた場合、市民の目も厳しくなる状況では、疑いをもたれるようなことは控えると思いますが、まるでバレたのは運が悪いとばかりに、それも調べればすぐに嘘と知れるような手法で、税金を不正使用する議員が話題となりました。
 かつての人権週間で公演して戴いた金田諦応さんは、東日本大震災での被災地支援活動を紹介された際に、「どうして東京オリンピックを四十年待てなかったのか」と、復旧復興が後回しになることを懸念されていました。二〇一六年にも熊本で大きな震災があり、東北地方では二〇一一年の悪夢がよみがえるような地震と津波がありました。それはまるで、大災害を忘れてお祭り騒ぎに浮かれていると、いつ災害に見舞われるかわからないという、自然からの警告とも受け取れます。
 二〇一六年のもう一つの大きな出来事は、選挙権が十八歳に引き下げられてから、初めての国政選挙が行われたことです。つまり、基本的にはすべての大学生に選挙権があることになるわけで、自分たちの将来を決める政治家を、自分たちの手で選ぶことができるようになりました。では、どの程度の若者たちが今夏の参院選において投票したのでしょうか。残念ながら多くの若者が投票権を行使しなかったことは、報道機関の調査でも明らかです。それは単に政治に無関心というだけではなく、何度選挙をしても同じような顔ぶれが選ばれ、相変わらず利権をむさぼるばかりで、国会の委員会において般若心経を読み上げるなどという、馬鹿げた姿をテレビにさらしている議員に、辟易としている若者が少なくないからだと思います。
 こうした政治状況とは対照的に、個人や任意の団体として、さまざまな問題に取り組んでいる方がおられることも、また間違いのないことです。花園大学の人権週間は、月曜日の夕方に映画上映などの前夜祭、そして火・水・木曜日の三日間に三人の方に講演をお願いしていますが、教職員や学生がそれぞれに提案を持ち寄って、その年にお招きする方を決定しています。講演には、学生はもちろんですが、学外からの一般の参加者も少なくありません。つまり、単に大学の催しというにとどまらず、大学からの情報発信の貴重な機会になっているといえます。

 本書は花園大学人権教育研究センターが発行する数々の出版物の中で、唯一、市販しているシリーズ「花園大学人権論集」の第二四巻です。センターで主催する催しの中で、花園大学の人権教育・研究に賛同される方々が発表された論考として、おもに人権週間の講演と定例研究会での発表を原稿化し、定例研究会については当該年度末、人権週間の講演については翌年度末に発刊する論集に掲載しています。つまり本書自体が、花園大学の人権に対する取り組みと、そこから得られる情報を発信する重要なツールになっています。
 今回の出版についても批評社に労をとっていただきました。出版業界の厳しい状況の中で、本書出版の意義を御理解くださった編集スタッフをはじめとする関係者に対して、厚く御礼を申し上げます。また、本書出版の意義を認めて格別の助成をくださった花園大学執行部にも、深甚の謝意を表します。

二〇一七年三月
人権教育研究センター所長(文学部教授)中尾良信

目次

はしがき

こうして僕は世界を変えるために一歩を踏み出した(鬼丸昌也)
●はじめに●子ども兵の問題に取り組むきっかけ●ウガンダで出会った子ども兵●なぜ子ども兵が存在するのか?●問題を自分事にする●私たちに何ができるのか●ウガンダでの支援活動●二〇一一年三月一一日ウガンダからの一本の電話●三つのお願い

すべての命に花マルを――生きることに他者の承認はいらない(朝霧裕)
●私のこと●「お願いの福祉」を変えたい●二〇一五年の街で●当事者が当事者として語ること●分断された手を、繋ぎなおす●すべての命に花マルを―生きることに他者の承認はいらない

互いに知り合う防災(阪口青葉)
●防災士って何やねん●実際の災害現場では●ワークショップ●互いに知り合うとはどういうことか●自助、共助、公助のなかでも大切な「共助」●災害から生き残るために

児童虐待――対応側からの考察(川並利治)
●はじめに●親権が優先される国●児童虐待対応に追われる児童相談所●児童福祉司と児童心理司●統計に表れないもの●スムーズに支援が進まない要因●児童相談所にかかわる中核市必置の議論●児童相談所設置市の現状と課題●児童にかかわる予防や防止の諸課題●おわりに●(質疑応答)

三鷹事件――竹内景助氏の主張の変遷(脇中洋)
●はじめに●三鷹事件の概要●列車暴走の謎●捜査側の動きと竹内氏逮捕●竹内氏の犯行
自白内容●弁護側の働きかけと竹内氏の供述変遷●竹内氏の自白に基づいた犯行手順●その後の裁判と再審請求●事件当日の竹内氏の動き●単独犯行説の根拠●竹内氏の生い立ちと逮捕後の言動●供述分析を行う上の困難●竹内供述の分析方針●犯人に扮して自白を展開すると…●単独犯行供述に見られる特徴●日本国憲法下での刑事手続き●(質疑応答)

沖縄の神話・伝説――本土からの南下と環太平洋からの影響(丸山顕徳)
●はじめに●日本文化の古層を伝える沖縄の「伝承話」●「土から生まれた人間」●「ンナグスの島建て」●「孫の乳」●「竜退治」●「天の岩屋」●「ミルク神とサーカ神」●「蛇婿入り」●「おさな神」●「伊江島の起源神話」●「八重山の起源神話」●「宮古島の起源神話」●「舜天王」●「波照間の新生」●「兄は鬼」●(質疑応答)

日本の宗教教団と原発(島崎義孝)
●教団人の立場から見えてきたこと●日本の既成宗教教団の特性●世界的な宗教指導者の原発観●日本の諸宗教の原発に対する態度●各宗教・宗派の態度・取り組み●(質疑応答)

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