TOP 精神医療と人権を考える こころの診療雑記─精神科医の聴心記

こころの診療雑記─精神科医の聴心記

  • 浅野弘毅著
  • 価格 1800+税円
  • 判型:46判、204ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0649-6
  • 初版発行年月 2016年7月20日
  • 発売日 2016年7月26日

内容紹介文

かつて呉秀三が「我邦十何万ノ精神病者ハ実ニ此病ヲ受ケタルノ不幸ノ外ニ、此邦ニ生マレタルノ不幸ヲ重ヌルモノト云フベシ」と嘆いた精神障害者への惨憺たる処遇に始まる近代日本の精神医療の前史をふまえて、1971年から45年間の長きにわたってひたすら精神医療と精神医療改革に心身ともにささげ続けたひとりの精神科医の聴心記。

 人は誰でも日々の生活のなかで、こころの隙間に風を感じる、同一性を保てないと感じることは誰でも経験することではないでしょうか。
早すぎる老成、不登校、子どものストレス、断食、拒食と過食といった思春期の危機を乗り越え、成人期から働き盛りの中年期へ。
この時期はこころの病に事欠かないほどあらゆる症状が待ち受けています。インターネット依存症、PTSD、脅迫神経症、不眠症、恐怖症、うつ病、統合失調症といったように、ほとんどの人が何らかの症状を経験することになります。
世の中のしがらみのなかで、自分の生を生き抜きながら、家族とともに生活を維持して行くことに疲れてしまうときもあるのではないでしょうか。
家族のホメオスターシス(生体の恒常性維持機能)とは、家族が直面している問題について互いにはっきりと話合う中で解決の方向を見出す家族療法ですが、女性にライフサイクルの危機が訪れるのもこの時期で、空の巣症候群という子どもたちが成人した後の埋め難い喪失感や空虚感に満ちているのです。
 老化を意識する初老から高齢者へ、そして定年。目標を見失い、居場所を失って、こころの老化が始まり、心気、不安、妄想、うつ、強迫、せん妄、そして認知症もどきから認知症へ。
こころの病は、子どもから高齢者までさまざまな形で現れます。個々の事例をとおして見えてくるものは、悩み、苦しみながらも、治療によってこころのリカバリーをめざす姿です。リカバリーとは、現実を受け入れて新たな人生の再出発を試みること、すなわちその人なりの生活をつくりだして行くなかで快復してゆくことではないでしょうか。

【著者略歴】
1946年宮城県生まれ。東北大学医学部卒業。仙台市デイケアセンター所長、仙台市太白保健所長、仙台市立病院神経精神科部長兼老人性痴呆疾患センター室長、認知症介護研究・研修仙台センター副センター長などを経て、現在、東北福祉大学教授兼東北福祉大学せんだんホスピタル院長。日本精神神経学会理事、日本デイケア学会副理事長、日本社会精神医学会理事、宮城県精神医療審査会会長、仙台市精神保健福祉審議会会長などを歴任。『季刊精神医療』(編集=「精神医療」編集委員会、発行批評社)編集委員。
著書に『精神医療論争史─わが国における「社会復帰」論争批判』『統合失調症の快復─「癒しの場」から』『ゆらぐ記憶─認知症を理解する』(以上、批評社)、『声と妄想─臨床精神病理論文集成』(医学出版社)、『精神科デイケア学─治療の構造とケアの方法』(M.C.ミューズ)ほか。

目次

第一章 人生の危機とセラピー

一、精神の異常と病気/二、乳幼児の精神保健/三、早すぎる老成・永遠の少年/四、青年期の危機と不登校/五、断食する娘たち――拒食と過食/六、過敏清潔症候群│どこまでも清潔に/七、境界例と現代/八、母性と父性/九、家族ホメオスターシス/十、子どものストレス、大人のストレス/十一、女性のライフサイクルと危機/十二、空の巣症候群――中年主婦の密やかな不全感:(一)ライフスタイルの変化(二)夫婦関係の変遷(三)空の巣症候群(四)「私らしさ」を求めて/十三、セラピーというのは言葉をさがすということですね/十四、文化現象としての遊び/十五、集団の発展とコミュニケーション/十六、働くということ│労働・仕事・行為

第二章 働き盛りとこころの健康
一、ミドルエイジ・シンドローム――中年期のストレスと心の健康:(一)中年期│昔充実期・今不安定期:(二)心理的なかたさ:(三)完璧主義の落とし穴:(四)夫婦の会話も……:(五)心身の健康を/二、不惑の病理/三、チームワークとリーダーシップ/四、テクノストレス/五、脱男性シンドローム/六、ストレスとの上手なつきあいかた――医師・看護師の場合/七、セルフウォッチング:(一)ストレスとこころの病気/(二)軽症うつ病/(三)セルフウォッチング

第三章 こころのクリニック
一、インターネット依存症/二、PTSD/三、神経症/四、不眠症/五、強迫/六、恐怖症の時代:(一)エイズが怖い(二)コンピュータが怖い(三)学校が怖い(四)会社が怖い(五)不潔が怖い(六)他人が怖い(七)肥満が怖い(八)認知症が怖い(九)死が怖い(十)恐怖の意味/七、統合失調症/八、心のリカバリー――現実受け入れ再出発を

第四章 うつ病
一、気分障害/二、うつ病もどきの氾濫:(一)うつとうつ病(二)軽症うつ病(三)メランコリー親和型うつ病という神話(四)現代型うつ病:(五)現代型うつ病の治療/三、高齢者のうつ病

第五章 脳の老化とこころの老化
一、こころの老化/二、高齢者に多いこころの病気:(一)心気(二)不安(三)妄想(四)うつ(五)強迫/三、せん妄/四、認知症は予防できるか/五、高齢者のターミナルケア/六、「老い」の居場所

第六章 認知症
一、「認知症もどき」――誤解蔓延不安を招く/二、認知症の高齢者を持つご家族へ/三、認知症高齢者の人権/四、認知症の病名告知/五、認知症ドライバー/六、高齢者虐待の防止――相談体制の充実を急げ

第七章 精神障害と社会
一、誤解/二、治療モードの変遷/三、病院医療をあらためて検証する:(一)精神科病院は変わったか(二)精神科病院不祥事件の続発(三)あらためて『精神科病院』論争を(四)アサイラムでもリトリートでもなく他方、精神科病院における〔閉じ込め〕と/四、病者の自死/五、自死の予防/六、援助者が援助するのを援助する/七、精神科領域における地域リハビリテーション/八、精神障碍者の社会参加にむけて――生活支援とケアマネジメント

第八章 東北の精神科医
一、安藤昌益:(一)生涯と業績(二)夢の分析(三)現代的意義/二、『東北帝大醫學部精神病學教室業報』のこと/三、丸井・下田論争│執着性格をめぐって

第九章 こころの異彩
一、自閉症の狂人/二、光太郎と智恵子/三、HUMAN LOST/四、『髪の花』再読/五、「松本竣介」を観る/六、「きまぐれ美術館」再訪/七、『世紀の狂人』を尋ねて/八、ピネルとイデオローグ/九、滝廉太郎と呉秀三/十、マーラーとフロイト/十一、色川武大の『狂人日記』/十二、相馬事件の後藤新平/十三、良寛のライフサイクル

あとがき

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