TOP 花園大学人権論集 支援のための制度と法のあり方とは

支援のための制度と法のあり方とは

  • 花園大学人権教育研究センター編
  • 価格 1800+税円
  • 判型:46判、214ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0641-0
  • 初版発行年月 2016年3月20日
  • 発売日 2016年3月25日

内容紹介文

近年、司法の信頼が失われ、冤罪が発覚し再審で無罪となる人びとが多くなりつつあります。にもかかわらず日本は死刑が存置し、取調べの全面可視化は実現せず、国連機関から名指しで勧告を受けるなど、いまだ人権後進国にとどまっています。裁判所は刑務所は罰のためにだけではなく、特に年少の触法者にとっては更生のためのものであるという一面が軽視されています。
他方、「バリアフリー」から「ユニバーサルデザイン」へと流れが変わっています。これは単なる言葉の問題ではなく、健常者や障がい者、老若男女などあらゆる個人を尊重し、共に生きやすい社会を作るという思想から出発しています。
法や制度は何のために、誰のためにあるのか。その原点にある支援の思想を広げていく時期にきているのではないでしょうか。

【はしがき】
 花園大学人権教育研究センターでは、毎年三回のフィールド・ワークを実施しています。数年来、夏休みには二泊三日で沖縄を訪問し、辺野古海岸の基地建設や東村高江地区のヘリパッド建設に反対する住民の方々との交流を重ねるとともに、島中に残る戦争の遺跡を訪問してきました。振り返ってみると、年ごとに日本国政府と沖縄の溝は深まり、ついに法廷闘争に持ち込まれる様相を呈してきました。日本国政府は、一貫して普天間基地の危険除去のためという錦旗を振りかざし、一方では辺野古基地建設に賛成する地区にだけ、地方自治体の頭越しに直接振興支援金を交付するという、いわば掟破りの露骨な方法で、沖縄の中に分断を生み出しています。それはまるで、一地方自治体としての沖縄県に対する姿勢というよりは、植民地に対する無慈悲な圧政とも見えるものです。
 さて二〇一五年度夏のフィールド・ワークは、東日本大震災後四年半を経過した東北、それも東京電力福島第一原発の事故の影響が残る、福島県浪江町を訪問しました。戦後七〇年という節目の年であることからすれば、今年も沖縄へという意見もありましたが、震災後の「フクシマ」がどのようになっているか、被災地に対する日本国政府の姿勢を確かめてみようと考えたわけです。
 実際に現地を訪れてみると、除染作業を中心に一応の復旧工事が進められてはいますが、津波に見舞われて骨組みだけが残った家屋が、荒れ地の中に放置されていますし、除染を済ませた家には雑草が生い茂り、とても元の生活が取り戻せているようには見えませんでした。現地を案内して戴いた小高九条の会世話人の志賀さんも、ほんとうの意味での復興復旧が進んでいない実状を指し示し、「私たちは棄民です」と言われました。最後に訪れた三春町の福聚寺では、住職で花園大学の客員教授でもある玄侑宗久師が、フクシマの放射能汚染は、現実の線量とは関係の無い、ある種のケガレのように捉えられていると述べられました。このように、福島第一原発事故によって故郷を奪われ、風評被害に苦しむ人たちを無視するように、鹿児島県川内原発は再稼働され、他の原発についても再稼働に向かう動きが、まさに粛々と進められています。
 たぶんに暗澹たる想いを禁じ得ないままで、フィールド・ワークから帰ってまもなくの九月一九日未明、憲法学者をはじめとする多くの研究者、全国の年代も立場も異なる多くの市民、そして国会議事堂を取り巻くデモに参加した人たちの反対の声を無視し、自らが演じる茶番劇に一点の恥じらいも感じない議員たちによって、戦争法案と揶揄された安全保障関係法案が強行可決されました。安倍首相は、積極的平和主義であり、むしろ戦争を抑止する法案だと主張し、その説明に納得しない市民の声を黙殺するように、国会での採決は行われました。
 いったいこの国の政治家たちは、国民の人権をどのように尊重するつもりなのでしょうか。私たちが政治に関心を失い、声を挙げることを忘れていると、いつの間にか国民の生活や命を、根底から揺るがす社会が生まれてしまうかも知れません。このような政治の暴走を食い止めるために、たとえば司法は抑止力となり得るでしょうか。結局のところ、選挙権を持つ主権者である私たち自身がしっかりと監視し、審判しなければならないと思います。
 二〇一四年度の人権週間では、狭山裁判や死刑制度についての法律家のお話を伺いました。一般市民が裁判員として死刑判決を下すことが、すでに現実となっています。他の誰かの生活や命と向き合うことと、私たちが選んだ政治家がどのような社会を目指しているのかを、主権者として監視することは、深い関わりがあるのではないでしょうか。社会のさまざまな場所で起こっている事実に眼を向け、自分の問題として関心を持つことが、きわめて重要になっていると感じます。花園大学人権教育研究センターは、こうした事実についての幅広い視野と意見を、多くの機会を通じ、できるだけ正確に提供することに努めたいと考えています。
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 本書は花園大学人権教育研究センターが発行する数々の出版物の中で、唯一、市販しているシリーズ「花園大学人権論集」の第二三巻です。センターで主催する催しの中で、花園大学の人権教育・研究に賛同される方々が発表された論考として、おもに人権週間の講演と定例研究会での発表を原稿化し、定例研究会については当該年度末、人権週間の講演については翌年度末に発刊する論集に掲載しています。
 今回の出版についても批評社に労をとっていただきました。大学をめぐる経済状況は、少子化のあおりを受けたこともあって、ますます厳しいものになっています。そんな中でも、本書出版の意義を御理解くださった編集スタッフをはじめとする関係者に対して、厚く御礼を申し上げます。また、本書出版の意義を認めて格別の助成をくださった花園大学執行部にも、深甚の謝意を表します。

二〇一六年三月
人権教育研究センター所長(文学部教授)中尾良信

目次

■冤罪と差別・人権(中北龍太郎)
はじめに/事件発生から再審請求まで/なぜ、自白したのか?/再審と証拠開示/冤罪・狭山事件??有罪判決の誤り/疑わしきは罰せずの鉄則/人権保障のための刑事司法改革と狭山事件


■裁判員裁判と死刑(後藤貞人)
はじめに/5人の死刑事件被告人/裁判員裁判における死刑事件の問題/裁判員裁判における死刑事件の現状/「罪刑の均衡」の前提条件としての刑罰の実態についての知識/何が問題か、そしてあるべき姿とは

■いのちと暮らしを守る??災害と防災(後藤至功)
災害被災地に関わり、感じること/避難所の状況/災害時要配慮者支援について/地震対策の基本は「3・3・3の法則」/風水害の対策/日常からの取り組み/まとめ

■実際の事件から??ルポと小説と(浅子逸男)
はじめに/東電OL殺人事件/桶川ストーカー殺人事件/尼崎連続殺人事件/日向市連続変死事件/さいごに/質疑応答

■セツルメント運動と人間性の解放??その功罪から学ぶべきこと(梅木真寿郎)
1.はじめに「なぜ、今セツルメントなのか」/2.セツルメント運動とは何か:その起源と定義/3.セツルメント思想の系譜/4.セツルメント運動の実践/5.セツルメントの現代的な意義/質疑応答

■積極的差別是正措置についての考察(室津龍之介)
はじめに/法の下における平等/「平等」とは何か/ミシガン州立大学事件/ミシガン州立大学事件への反応とその後/affirmative actionとは?/affirmative actionへの批判/差別論の本質/質疑応答

■幼児教育の追求とモンテッソーリ教育(保田恵莉)
はじめに/「一枚の葉っぱ」から/幼児教育の歴史的背景/モンテッッソーリ教育について/教育の接点と考察/おわりに/質疑応答

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