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大逆罪・内乱罪の研究

  • 新井 勉
  • 価格 3200+税円
  • 判型:A5判、288ページ、上製
  • ISBN 978-4-8265-0640-3
  • 初版発行年月 2016年4月25日
  • 発売日 2016年4月25日

内容紹介文

法制史研究の第一人者による大逆罪・内乱罪に関するはじめての本格的研究書!

明治政府にとってもっとも重要な万世一系の天皇に対する大逆罪は、1910年(明治43年)に幸徳秋水らが明治天皇暗殺を企てたとして検挙された大逆事件に適用された。
一方、内乱罪は、激動の昭和前期に勃発した5.15事件、2.26事件では陸海軍刑法が適用され、内乱罪は見送られた。したがって、明治40年刑法の施行以来、今日に至るまで日本において内乱罪が適用されたことはない。法制史研究者によるはじめての本格的研究書である。

 日本における古代から中世、近世にいたる日本史のなかで、時の権力の座をめぐって、謀反(むへん)や謀叛(むほん)、陰謀、諜報、呪詛、殺人や放火による五逆罪、八虐罪、十悪の殺戮や刑罰、内乱や暴動の記録は、古文献に数多く残っている。『古事記』『日本書紀』『今昔物語集』『保元物語』『太平記』『日本霊異記』『続日本記』など枚挙にいとまがないが、どのような法体系で処罰され、万世一系の天皇制は、維持・存続されてきたのか。
 古代日本の刑罰の法典である大宝律(全巻散逸)、養老律(「令義解」「令集解」だけ残る)は、中国唐律、明律の模倣だが、謀反、謀大逆、謀叛、悪逆、不道、大不敬、不孝、不睦、不義、内乱の十悪を踏襲している。日本では、不睦の禁じる近親売買、内乱の禁じる近親相姦は、禁じるものではなかったので、不睦は不道に、内乱は不孝に含めて八虐としたのである。

日本の刑法は、維新後、明治新政府によって大日本帝國憲法(欽定憲法)が1889年(明治22年)2月11日に公布、翌年に施行される以前、1880年(明治13年)に刑法典が制定されたが、それは政府への叛乱(雲井龍雄事件、佐賀の乱、神風連の乱、秋月の乱、萩の乱、西南戦争など)が勃発するなかで、重大犯罪の処罰の必要性から中国の唐律、明律、清律を模倣した最初の刑法典である仮刑律をはじめ、臨時暴徒処分令、新律綱領・改定律令をもって天皇制国家の存立、存続を敵対勢力から防衛する法的措置として紆余曲折を経て整えられたものである。
以来、1907年(明治40年)の法改正による刑法典は、ボアソナードの指導の下、欧米諸国の法体系を参考にしながら天皇制国家体制を護持するために整えられたが、ボアソナードをして「日本刑法は遂に世界中最も野蛮なる法律中に排置せらるる」と言わしめた、もっとも重要な万世一系の天皇に対する大逆罪(天皇三后皇太子ニ対シ危害を加ヘ又ハ加エントシタル者ハ死刑ニ処ス)は、1911年(明治44年)に幸徳秋水らが明治天皇暗殺計画を企てたとして検挙された事件に適用された。
一方、内乱罪は、激動の昭和前期に勃発した5.15事件、神兵隊事件、2.26事件では陸海軍刑法が適用され、内乱罪は見送られた。したがって、明治13年刑法の施行以来、今日に至るまで日本において内乱罪が適用されたことはないのである。
戦後、1946年(昭和21年)「刑法の一部を改正する法律案の要綱」で大逆罪はGHQのマッカーサーの指令によって天皇や皇室に対する不敬罪、大逆罪は削除された。時の総理大臣吉田茂が掛け合ったがマッカーサーによって一蹴されたが、内乱罪についてはマッカーサーの指示もなく、明治40年刑法の古色蒼然たる条文は無疵で残ったのである。
1995年(平成7年)4月、改正刑法草案が発表されながら、遅遅として難航している作業に対して、明治40年の刑罰法令の現代用語化を検討するよう求めた法案が成立し、施行された。「内容の変更を伴う改正は原則として行わないこと」だったが、表記平易化の名の下に、内乱罪の目的は基本秩序の変革と国権の排除の二つでよい、とする準備草案の考え方を導入している。
憲法改正が目下のところ、現内閣で強行されようとしている現在、刑法改正問題は憲法改正によって大きく左右されてしまう可能性がある。

【著者略歴】
1948年生まれ。京都大学法学部卒業、京都大学大学院法学研究科博士課程単位取得。日本大学法学部教授。
【著書】『大津事件の再構成』(御茶の水書房)、『松岡康毅日記』(共著、日本大学)、 『近代日本司法制度史』(共著、信山社)、PP選書『大津事件――司法権独立の虚像』(批評社)。
【論文】「明治国家の運営と廃止緊急勅令??」、「裁判所構成法の施行と司法部の人事??」、「西欧刑法の継受と盗罪???」、「近代日本の大逆罪」、「昭和初年の官吏減俸令と裁判官」、「大正・昭和前期における司法省の裁判所支配」(以上、日本法学)、 「一九〇五年日韓協約の瑕疵について」、「明治日本における政治亡命と金玉均」、「明治前期の叛逆について」(以上、政経研究)、「朝鮮制令委任方式をめぐる帝国議会の奇態な情況について」、「明治国家の人的構成」、「新史料による大津事件の核心」(以上、法学紀要)。

目次

大逆罪・内乱罪の研究
目次

序 説──大逆とは何か、内乱とは何か

一 古代日本の謀反、謀叛

はじめに──国家とは何か
一 八虐の謀反、謀叛
二 謀反、謀叛の実例
(一)律令制度以前
(二)律令制度盛期
おわりに

二 中世日本における謀叛

はじめに──天皇御謀叛という奇語
一 公家法の謀反
(一)前史
(二)鎌倉開府以後
二 武家法の謀叛
(一)御成敗式目
(二)追加法
おわりに

三 近世日本における叛逆

はじめに──逆罪は叛逆か
一 江戸前期の叛逆
(一)武家諸法度・
(二)武家諸法度・
(三)叛逆の事例
二 江戸中期・後期の叛逆
(一)御定書
(二)叛逆の事例
(三)藩法
おわりに

四 明治前期における叛逆

はじめに──不祥の条規という伝説
一 明治前期の叛逆法令
(一)仮刑律
(二)新律綱領・改定律例
(三)臨時暴徒処分例
二 叛逆の事例
おわりに

五 大逆罪、内乱罪の創定

はじめに──君主と国家の分離
一 大逆罪、内乱罪の創定
(一)フランス法の模倣
(二)内乱罪の分離
(三)朝憲紊乱への階梯
(四)大逆罪、内乱罪の条文確定
二 分離への反発
(一)分章撤回・
(二)分章撤回・
(三)一章二節
おわりに

六 大逆罪、内乱罪の交錯

はじめに──朝憲紊乱とは何か
一 大逆罪の条文確定
(一)前史
(二)前期の改正論
(三)後期の踏襲論
二 内乱罪の条文確定
(一)前史
(二)前期の改正論
(三)後期の踏襲論
三 大逆罪、内乱罪の交錯
(一)内乱罪を分けない
(二)死刑廃止を退ける
おわりに

七 仮案の大逆罪、内乱罪

はじめに──昭和動乱の下の大逆罪、内乱罪
一 改正刑法仮案の編纂
二 起草委員会における大逆罪、内乱罪
(一)刑法改正予備草案の大逆罪、内乱罪
(二)草野豹一郎、池田克の修正案の審議
(三)泉二新熊の修正案・の審議
(四)泉二新熊の修正案・の審議
(五)起草委員会の成案
三 刑法並びに監獄法改正調査委員会の審議
(一)起草委員会原案の審議
(二)小委員会修正案の審議
(三)改正刑法仮案
おわりに

八 昭和後期以後の内乱罪

はじめに──表記の平易化と内乱罪
一 大逆罪の廃止
二 改正刑法準備草案の内乱罪
三 改正刑法草案の内乱罪
四 平成七年の表記平易化と内乱罪
おわりに

後 記

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