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大津事件─司法権独立の虚像 PP選書(Problem&Polemic:課題と争点)

  • 新井 勉著
  • 価格 1800+税円
  • 判型:46判、224ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0600-7
  • 初版発行年月 2014年6月10日
  • 発売日 2014年6月12日

内容紹介文

大津事件は裁判所が政府の裁判干渉を退けた司法権独立史の輝かしい事件だったのか!?
明治24(1891)年5月、ロシア皇太子ニコライが滋賀県大津市で沿道警備の巡査津田三蔵にサーベルで斬り付けられ負傷する事件が突発した。この大津事件をめぐって、明治立憲国家の成立直後であったため、大国ロシアとの外交関係を考慮した天皇と政府が津田三蔵を死刑にせよ、と裁判干渉を強行しようとした。ところが、大審院長児島惟謙が裁判干渉を退けて、司法権独立を墨守した裁判史上輝かしい事件だと、今日に至るまで評価されているが、果たして本当だろうか。
『ニコライ遭難』(吉村昭)が描く大津事件像は虚像にすぎない。実際は、ロシア外相が求償権を放棄した後になって、政府は津田三蔵を死刑にするよう大審院に強く圧力をかけ、大審院長児島惟謙は、公判の前日、司法大臣に電報で三蔵を死刑にする緊急勅令の発布を求めた。このとき大審院は政府の圧力に屈し、死刑判決を下す法的根拠を政府に求めたといっていい。
さらに児島惟謙は、裁判所構成法が禁じる部下の裁判官に裁判干渉したが、結局、政府の緊急勅令は発令されることなく、裁判は立憲制に制約されて三蔵に無期徒刑の判決を言い渡した。これをもって、大審院や裁判所が「司法権独立の礎石をおいた」と高く評価するのは皮相な見方である。
明治天皇をはじめ、薩長の元勲の権力の源泉は、戊申戦争の軍事的勝利である。立憲制の導入後は、天皇権力の根拠は『記・紀』神話というフィクションに求めるしかなく、薩長の元勲権力の根拠は正理の源泉たる天皇の信任に移行したのである。政府や元勲が三蔵を死刑にしょうと躍起になったのは、ロシアのシェービッチ公使の要求もあったが何よりも天皇の意思が大きく働いたためである。

いま、自民党政権が4年有効の国家権力掌握期間中に、隣国への強硬外交を展開し、特定秘密法を成立させ、さらに個別的自衛権から集団的自衛権へと憲法解釈を大きく変更しようとしている。これは立憲性の制約を意に介さない点で、明治中期の権力中枢のやり方と違いがないといえる。基礎的資料を緻密に検証して通説の虚像を突き崩し、核心に迫る事件の真相を抉り出した研究者必読文献である。
【著者略歴】
1948年生まれ。京都大学法学部卒業、京都大学大学院法学研究科博士課程単位取得。日本大学法学部教授。著書として、『大津事件の再検証』(御茶の水書房)、『松岡康毅日記』(共著、日本大学)、『近代日本司法制度史』(共著、信山社)。
論文「明治国家の運営と廃止緊急勅令1.2.」ほか多数。

目次

PP選書[Problem & Polemic:課題と争点]
大津事件――司法権独立の虚像*目次

まえがき
◯史料の引用法/◯参照法令/[児島惟謙の二つの手記]

序章
小説『ニコライ遭難』の嘘
◯事件突発の夜/◯恐慌状態に陥った/◯司法部の気風

第一章
遭難
◯来遊/◯大津遊覧/◯遭難

第二章
天皇百事指揮する
◯迎接準備/◯ロシア公使館投石事件/◯事件の報届く/◯東京出発/◯京神における天皇

第三章
死刑への方策
◯罪は何か/◯類推解釈/◯暗殺、戒厳令/◯詔勅論の登場/◯詔勅論の行方/◯緊急勅令/[副署なき勅語]

第四章
賠償なし
◯外交文書の欠落か/◯賠償問題

第五章
裁判干渉
◯天皇の思召し/◯管轄違いの申立て/◯内閣、司法省/◯勅語/◯勅語は何を命じるのか

第六章
大津開廷
◯開廷まで/◯巻き返し/◯綱渡りの緊急勅令/◯法相、内相の大津入り/◯公判

あとがき

参考文献

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