TOP サイコ・クリティーク 宿業の思想を超えて◆吉本隆明の親鸞

宿業の思想を超えて◆吉本隆明の親鸞

  • 芹沢俊介著
  • 価格 1785円
  • 判型:46判、176ページ、並製
  • ISBN 978-4-8265-0564-2
  • 初版発行年月 2012年7月25日
  • 発売日 2012年7月30日

内容紹介文

追悼 吉本隆明
吉本隆明は現代の親鸞である。

まえがき
この本は、親鸞(一一七三?一二六二)と吉本隆明(一九二四?二○一二)という、世界に屹立するたぐいまれな思想家(革命思想家)が、時空を超え、二人して遠くまで考察してきた悪と悪の彼岸の問題について、私なりに理解を深めようとしてきた、その思考の歩みを提示したものである。このさきどこまで二人の足跡を見つけ、たどっていけるかはこころもとないが、それでもここに至る過程が、その貧しさにおいて誰のものでもない私自身の足を使ってたものであることは、ひそかに誇っていいと思っている。
二人の生み出した思想との対話を繰り返しながら、一方で二人が読み込んでいた仏典に少しずつでも触れるという試みを続けてきた。触れるとは、私の場合、音読する、である。それ以外の触れ方はわからなかった。解釈することではない。解釈しはじめたら、素人には一行どころか一字たりとも前へ進めなくなることは明らかであった。だからひたすら漢訳の書き下し文を音読するという姿勢をとった。音読することを通して仏典の思想の息づかいにいくらかでも触れられれば、それで足りる。そのような読み方を始めて七、八年がすぎたが、当然とはいえ、二人の天才が読破したに違いない仏典のうちの、わずかなものにしか触れることしかできていないでいる。しかし大きな恵みも得ることができた。四年近くかけて長大な『涅槃経』(常盤大定訳)を読み了えたことだ。
読み終えてわかったことは、親鸞・吉本隆明ともに、『涅槃経』を悪についての考察の根底に敷いているという事実であった。『教行信証』の親鸞はいうまでもないとして、吉本隆明は『涅槃経』に言及することはなかったものの、読み込んでいることは確実であった。『涅槃経』における悪は、一闡提に象徴される。善(正しい法への帰依)の可能性が皆無なだけでなく(これを『涅槃経』は常没と呼ぶ)、五逆を犯し、仏法を誹謗し、四つの禁を破るという行為で自己を染めあげた存在ということだ。突き詰めれば『涅槃経』はこのような悪を救済の対象にするのか、それとも外すのかという議論が中心の一つになっていることがわかった。私には、そのような一闡提は殺しても罪にならないという観点と、こうした一闡提も救済の対象となるという観点との間を揺れている、そうした振幅の大きさが『涅槃経』の圧倒的な魅力であると思われた。吉本のいう善悪をめぐる現世を超えた浄土の規模の議論の萌芽がここにあった。
親鸞は、『涅槃経』において、一闡提がそのあり方を自覚し、悔い改めれば救済の対象となるという議論に、立ちどまり、疑念をおぼえたに相違ない。というのも、一闡提は善の可能性が皆無であるゆえに、一闡提なのではないか。こうした疑念が、本文に示したように親鸞の弥陀の第十八願、そしてそこに付け加えられている但し書きについての理解を深める契機であったものと推測する。確信はないのだけれど、一闡提とは、造悪の人のことではないか。
吉本隆明は、こうした一闡提についても、『涅槃経』の悪をめぐる実に魅力的な登場人物である破戒の人阿闍世や釈尊から「暫出還没」と評された提婆達多、阿闍世の母韋提希にも一切言及していない。これらの問題については、すでに親鸞があますところなく思想化してしまっていると考えたからだ、そう断言していいように思う。この見事なまでの徹底性は、親鸞思想に自己の思想を完璧に近いかたちで接合しようとした吉本隆明の方法的特徴であり、それこそが私が吉本隆明を現代の親鸞であるとみなしたい主な理由の一つなのである。
この本は、吉本隆明が、親鸞が悪とは「悪の行為」のことだと考えた地点から出発し、悪とは行為ではなく、「意図」であるという新たな、未踏の倫理の地平を切り開いたことに着目している。
みなさまはどう考えられますか。


目次

まえがき

? 吉本隆明の死

吉本さんとの縁

戦後の呼んだ奇蹟
――吉本隆明は、これからの時代を拓く不可欠な存在として、現代の親鸞になった

吉本隆明の“ひきこもれ”

日常営む大衆の一人
――私と吉本隆明さん

何があろうと一人で立つ
――時代が呼んだ奇蹟の思想家

現代の親鸞
――大衆の救い、一人考える

? 宿業の思想

吉本隆明の仕事・人間について

吉本隆明「存在倫理」をめぐって

造悪論のこと
――吉本隆明「存在倫理」の理解に向けて

普遍悪の概念をめぐって
――親鸞と吉本隆明

? 自己表出・指示表出

関係論として読む
――『言語にとって美とはなにか』をどう読むか

自己表出・指示表出、そしてイノセンスの表出

物象について

〈意味の影の流れ〉について

傷としての記憶


初出一覧

あとがき

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